第1132回
吉原の灯は消えずとも・・・
久しぶりに花の吉原を縦断した。
花園通りから大ソープランド街に侵入し、
♪ 舟から上がって土手八丁 ♪ の土手通りに抜ける。
いえ、べつにお風呂に入りに来たわけではなく、
目当ては吉原大門の先の洋食屋であった。
この大門は“だいもん”でなくて“おおもん”と読む。
一方、芝増上寺の大門はご存知のように“だいもん”。
これはお寺の門と廓(くるわ)の門がおんなじじゃ
それこそミソもクソも一緒くたになるので
読み方だけでも変えたのである。
当夜は少々トウの立ったご婦人と一緒。
生まれて初めての色街通過とあって
興味津々の彼女の目はいつになく爛々と輝いていた。
こちらはこちらで女性を伴うメリットを実感中である。
何となれば、うるさくてわずらわしい客引きも
女を連れた男には声を掛けてこないから大助かり。
何を勘違いしたものか、
ツレはスカウトされることを期待している様子。
あらためて頭のテッペンから足のつま先まで見渡したところ、
あからさまにそれは見果てぬ夢、
まっ、当人には黙っていたけれど、
言わぬが花というものであろう。
それにしてもウラ寂しい。
店々にどうにか灯りは点いているものの、
出入りする客はおろか、通りを歩く人影さえほとんどない。
ここ数年は銀座のクラブも苦しかろうが
吉原のソープだって大変である。
門などないから大門とは名ばかりの交差点を
見返り柳を右に見ながら横断する。
この夏、国の有形文化財に認定された天ぷら「土手の伊勢屋」と
桜鍋「中江」の店先をかすめ、なおも三ノ輪方面に歩を進める。
ほどなく見えてきたのは「ニュー吉原」ならぬ「ニュー栗原」。
数ヶ月前に通りかかって目星をつけておいたのだ。
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見るからに下町の食堂
photo by J.C.Okazawa
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街のはずれとはいえ、店内にも浅草の痕跡が残っている。
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大鳥神社の熊手と浅草寺の羽子板
photo by J.C.Okazawa
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壁にペタペタ貼られた品書きが楽しい。
他店にはあまりない品目ということで2皿選ぶ。
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生玉子を乗せた豚ロースニンニク焼き
photo by J.C.Okazawa
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パン粉で判らぬがウインナーフライ
photo by J.C.Okazawa
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豚ロースはともかく、ウインナーのフライなんて
子どもが食べるものみたいだが
どうしてどうして、これがビールにピッタリ。
エンコもここまで来るとアサヒでなくてサッポロだった。
あまり飲めない相方はライスと味噌汁も上々だという。
夫婦2人だけで切盛りするこの店は旨い店である。
「ニュー栗原」をあとにして
2軒目は東京に唯一残った都電・荒川線の始発駅、
三ノ輪橋の隣りにある「弁慶」。
串煮込みが名物の大衆酒場はコの字カウンターがあるのみ。
中ではアンちゃんが独りテキパキと客の注文をさばいてゆく。
折りよく2人並んで座れ、
さっそくレモンのスライスを浮かべたハイボールだ。
煮込みはフワ・シロ・ハツモト・ナンコツを。
ディープな空気が漂う中、
常連たちのダダ話に耳を傾けているうちに
ふと、チンチン電車に揺られてみたくなった。
【本日の店舗紹介】その1
「ニュー栗原」
東京都台東区日本堤2-16-2
03-3873-4568
【本日の店舗紹介】その2
「弁慶」
東京都荒川区南千住1-15-16
03-3806-1096
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