「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1136回
私鉄沿線(その3)

およそ30年ぶりに訪れている「大八北珍」。
新京成線・上本郷では知らぬ人とてない町の中華屋である。
大盛りの料理に圧倒されて仕上げの麺・飯類はとてもムリ。
当初は上本郷から松戸まで一駅歩き、大衆酒場「ひよし」で
焼きトンと煮込みをつまみに飲み直すつもりだった。
でも、もう食べれまへん。
肉野菜炒めと回鍋肉で大量の野菜を摂取できたものの、
同時に豚肉もたっぷりいただいた。
いくらモツとはいえ、豚は豚である。
これ以上、食べる気にはなれない。

今後の身の振り方を考えながら「大八北珍」をあとにする。
店舗の絶対数が少ない、もの寂しい商店街である。
はす向かいに古ぼけた日本そば屋が1軒。
そうだ、この店も昔からここにあった。
確か「稲迺家」といったような・・・。

通りを渡り、「稲迺家」の店先にたたずむ。
記憶をたどっていってハッと気がついた。
ここには1度だけ入店した。
1976年夏、成増から転居したその当日のことである。
引越しを手伝ってくれた友人2人と一緒に
もりそばを2枚ずつ食べた。
あとにも先にも利用したのはその1度だけ。
若かったので日本そばをあまり口にしなかったのだろう。

懐かしさがこみ上げてきた。
今しがた、中華の麺類を断念したばかりなのに
人間というのは愚かなものですな、
ケロリ忘れてそば屋の暖簾をくぐっている。
愚か者はオマエだけだよ! ってか?
ほっとけや!

4つしかないテーブルの1つに着席。
34年前とおんなじテーブル(だと思う)だよ。
店内の雰囲気も時計が止まったように
寸分も変わっていない(そう感じた)じゃないか!

オバさんに燗酒を注文。
振り返って厨房を見やると、調理係もやはりオバさん。
傍らでオジさんが居眠りをしている。
平和な町だよ、上本郷。

注文品は決まっているが一応、品書きに目を通す。
黄桜の1合瓶とともに小鉢の天ぷらが運ばれた。
いんげん・ししとう・茄子の天ぷらの下に
天つゆをかけた大根おろしが潜む。

精進揚げのお通しにほほも緩む
photo by J.C.Okazawa

「もう1本頼んだら、もう1つ出て来るかな?」
何だかうれしくなって相棒にささやくと
「それはないんじゃないの」
素っ気ない返答。
ふん、夢のないヤツめ!

お願いしたのは34年ぶりのもりそば(500円)と
そのネーミングも好もしい支那そば(550円)。

最近珍しい太めのもりそば
photo by J.C.Okazawa


日本そば屋の典型的な支那そば
photo by J.C.Okazawa

どちらもじゅうぶんにおいしい。

獏(ばく)は夢を食べ、仙人は霞を食べるという。
J.C.はこのとき、想い出を食べていた。

           =おわり=


【本日の店舗紹介】
「稲迺家」
 千葉県松戸市仲井町2-46
 047-363-4747


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2010年11月11日(木)

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