「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1142回
渋谷で保険をかけました(その1)

なるたけ行きたくない渋谷へ髪の毛を切りに。
1月半に1度のペースで若者が我が物顔の街へ来る。
あまりに突飛な店名につき、恥ずかしくて明かせないが
その店は渋谷区役所の真ん前にある。
人混みを避け、いつも原宿方面から歩いている。
もし反対側の渋谷から坂を上ったりしたら
歩行者は歩道からあふれんばかり。
若者の増殖が施政者の都市計画を粉砕した結果がこれだ。

歩道をゆっくり歩けない街は嫌いである。
大きな街では新宿もまたしかり。
小粒な町では下北沢や自由が丘がこれに当たるだろうか。
したがって2つの町へはたまさか食事に出向くことはあっても
散歩にはnever行かない。

その日は渋谷で働く若い友人にガレットをご馳走する約束。
ガレットはブルターニュ名物のそば粉のパンケーキだ。
小麦粉のクレープは甘味として食されるケースが多いが
ハムや玉子を包んで焼くガレットは食事である。

散髪の間、飲みものを遠慮したので喉が渇いた。
ガレット屋には必ずりんご酒のシードルがある。
枝豆にビール、おでんに燗酒、ガレットにはシードルなのだ。
嫌いではないシードルながら晩酌の先鋒は常にビールとしたい。
仏産のクローネンブールなら問題ないが
恵比寿に近い渋谷ではこの土地の定番が出る怖れもあるし、
何が来るのか知れたものではない。
ここは保険をかけておかなければ――。

気の進まなそうな彼女を引っ張るようにお連れ、
もとい、拉致したのは渋谷一の立ち飲み処「富士屋本店」。
まさに渋谷のオヤジの吹き溜まりがここ。
おっと、そんな言い方回しは失礼だ、オヤジたちの救世主、
あいや、オアシスとしておこう。
エビスの代わりのサッポロ黒ラベルがうれしい。
これこそがJ.C.の強調する保険であった。
2人で来たらつまみは最低2品。
腹に溜まらないよう、谷中生姜とこんにゃく煮を所望した。

30分ほど滞在したのち、
向かったのは松涛の、その名も「ガレットリア」。
ところがこの店に入ってビックリ。
テイクアウトでもないのに客を店頭に立たせたまま、
オーダーを取ろうとするではないか!
立派な店構えをしていながら
こんなに馬鹿げたシステムの店は前代未聞だ。
しかも周りを囲むスタッフに気持ちがこもっていない。
冷たくシラけた空気が辺りを支配している。
彼女たちだけでなくマネージメントも駄目ですな、こりゃ。

心の行き交いを遮断して
若い客ばかりをマニュアル通りにさばいていると
接客係として、いや、人間として
大切なものを見失ってしまうのだろう。
気持ちがザラつき始め、
とてもここで食事する気になれなくなった。
「またの機会に!」――努めて笑顔を装い、
責任者らしき女性(これがまた氷の微笑)に告げて
再び夜の街へ出る。
やれやれ、こっちのほうは保険がかかっていないよ。

 ♪ 月の渋谷をはるばると
     ふたりはどこへ行くのでしょう ♪

            =つづく=


【本日の店舗紹介】
「富士屋本店」
 東京都渋谷区桜丘町16-10
 03-3464-9044


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2010年11月19日(金)

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