「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1154回
島根のうりぼう フランスの山鳩(その1)

西荻の「ビストロ・サン・ル・スー」へ。
店名の仏語は“一文無し”の意味。
新宿以西の中央線沿線にあって
稀有なことに優良な料理店が揃う町・西荻窪。
好ましいい土地柄である。
駅周りがだだっ広くないのがいい。
乗合いバスの往来はあるものの、
それほどの喧騒はなく、町全体が端正な表情を見せている。

以前、ここに棲んでいたS蔵クンとの待合わせ時間まで
20分ほどのマがあったので北口をうろついた。
折から日曜日とあってカツ丼の「坂本屋」はお休み。
スタンドバー「西荻スイッチ」の灯りも消えて
メニューボードが暗い店内に取り込まれていた。

自家製ハム・ソーセージを商う「もぐもぐ」で
スペイン産チーズのマンチェゴと
ドイツ風生ハムのラックスシンケンを買い求める。
駅前の「喜久屋商店」では
「新宿中村屋」のレトルトカレーも買った。
レトルトカレーはけして好きではないけれど、
「中村屋」と湯島「デリー」だけは例外、ときどき食べている。

日曜夜でも「サン・ル・スー」は盛況だった。
西荻の住人はこの晩から再スタートしたNHKドラマ、
「坂の上の雲」にはあまり関心がないようだ。
局が力こぶを入れて製作しているわりに
どこか物足りなさの残るドラマだものねェ。
なんでんかんでん香川照之を使えばいいってモンじゃないよ。

ファーストドリンクはフランス産のクローネンブール。
相方は殊勝にもペリエときた。
同時に抜栓をお願いした赤ワインは
シャサーニュ・モンラッシェ クロ・ドゥヴァン
ルネ・ルカン・コラン‘06年で、これが5950円。
名物マダムのコメントによると、
酸が勝っているようだが収穫量に限りがあって
造り手によるバラつきが少ない銘柄のこと、
まずハズレはなかろうと見切ったうえでの白羽の矢だ。
案の定、香り、舌ざわり、喉越し、余韻、
すべてにおいて問題はない。
殊に香りと余韻はなかなかのもので
始めよければ終わりよしの典型例が卓上に屹立していた。

この店の料金設定は他に類を見ないユニーク極まりないもの。
アントレ(前菜)・プラ(主菜)・デセールの3皿コースが
選んだ前菜によって決まるシステム。
主菜にいくつか追加料金が発生する皿があるものの、
原則、お金の沙汰は前菜次第ということだ。
お金の沙汰が“前妻”次第となると、
なんだか日ハムのダルビッシュ投手みたいですなァ。
おっと、彼らはまだ離婚調停中だったか。

そうこうするうち、くだんの前菜が運ばれた。

香草がいっぱいの根セロリのムース(4880円)
photo by J.C.Okazawa


カルダモン風味の天使の海老と押麦のマリネが添えられている。

豚各部位のパートブリック包み焼き(4410円)
photo by J.C.Okazawa

各部位は豚のこめかみ・耳・足である。
さっそく包み焼きにナイフを入れると、
ファイバーの立った肉塊が顔をのぞかせ、
肉々しい匂いが立ち上ってきた。

              =つづく=


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2010年12月7日(火)

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