第1155回
島根のうりぼう フランスの山鳩(その2)
杉並区最西端の西荻窪に来ている。
中央線でもう一駅乗れば、そこは武蔵野市・吉祥寺。
吉祥寺は若者が住みたい街の上位に常々ランクされるが
あんなゴチャゴチャしたところはご免こうむりたい。
年寄りには西荻のほうがずっと落ち着くのだ。
町一番のフレンチ、「ビストロ・サン・ル・スー」にて
シャサーニュ・モンラッシェとともに前菜を楽しんでいる。
そう、そう、書き忘れるところだった。
この店のパンの種類は実に豊富、自家焼きなのだろう、
オリーヴを練り込んだのやら、にんにく風味を利かせたのやら、
常時6種類ほど用意されている。
別料金のバターはカルピスバター。
軽やかにしてキレがあり、いっとき自宅でも愛用していたが
使い切るのに半年もかかるので、ほどなくやめた。
(小)50円、(大)100円とメニューにあった。
(大)を頼むとトンデモない量、食べ切ったら病気になる。
プラ(主菜)は決める際にS蔵クンと吟味を重ねた。
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島根県産仔猪(うりぼう)の盛合わせ
photo by J.C.Okazawa
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ロースト・コンフィ・パイ包み焼きの3種に
ガルニテュールの温野菜もどっさり。
目移り自慢のJ.C.には恰好のディッシュである。
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フランス産山鳩のロースト(1/2羽)
photo by J.C.Okazawa
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濃厚な赤ワインのソースがヘモグロビンの多い鳩肉にマッチ。
ああ、今年も冬がやって来たのだなァ・・・
いつの間にかジビエの季節に突入していることを実感する。
そしてちょっぴりリッチな気分にも浸った。
ぜいたくの証しとしてサプルマン(追加料金)は
うりぼうが+1000円、山鳩は+500円。
どちらもボリューム満点で食材自体もきわめて良質である。
舌鼓を打ちながら、ふと思いが島根の空に飛んだ。
うりぼうは大山(だいせん)辺りの山奥で撃たれたのだろうか。
この仔の兄弟たちは生き残って母猪と一緒にいるのだろうか。
母は忽然と消えたわが子を思い出すことがあるのだろうか。
フランスで捕られた、いや、これも撃たれたハズだ、
山鳩にしたって静かに暮らしているところを
ある日突然、猟師にズドンと殺られたに違いない。
偽善者ぶってそんなことをつらつらと考えながらも
好んでジビエを口にしているのだから
われら獣食主義者が天国に行ける道理はない。
バチが当たっても文句が言えた義理ではないのだ。
家畜や家禽の命を軽んじるつもりはないけれど、
とにかく今年のジビエはこれで食べ納めとしよう。
ここで今シーズンと言い切れないのは
明けて1月に“日本のジビエを味わう会”を予定しているから。
つくづく罪深いハナシだね。
と思っていたら、いきなりバチが当たった。
奥歯にガリッと来たのである。
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山鳩から出てきた散弾
photo by J.C.Okazawa
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野鳥にはままあることで、別段驚くことでもない。
続いて食卓にはフロマージュとデセールが1皿ずつ。
フロマージュはモンドールとエポワスが1スプーン・イーチだ。
ブルゴーニュの赤にはウォッシュチーズがピタリ寄り添う。
と言うよりも、どんな暴れん坊ワインも
エポワスにはひれ伏してしまうのだ。
じゃじゃ馬ならしとはこのことですな。
デセールはアールグレイ風味のクレームブリュレ。
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ヴァニラアイスを乗せたクレームブリュレ
photo by J.C.Okazawa
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締めくくりに相方はハーブティー、
こちらはスーパードライの生を1杯。
泡少なめでお願いしたら理想的な塩梅でサーヴされた。
ありがたや。
支払いは2人で2万円と少々。
都心を遠く離れても訪れる価値、大いにありだろう。
この店の実力と人気の秘訣を見せつけられた一夜であった。
【本日の店舗紹介】
「ビストロ・サン・ル・スー」
東京都杉並区西荻南3-17-4 第2篠ビル2F
03-3247-1408
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