第1161回
迷ったときは大塚へ行く(その3)
大塚三業通りの「一松」にて
突き出し3品盛りを肴に飲んでいる。
気取りのない料理に好感が持てる。
江戸の誇る鮨・うなぎ・天ぷらは別として
いつの頃からか和食界は西の方角を向いたままだ。
京料理ばかりを誉めそやし、持ち上げる風潮って何だかなァ。
ああいう典雅なゼイタク品は年に数回、
いや、1〜2回いただければそれでいいんでないかい?
日本料理屋に行ったら
「コレとソレ、あともう1品、アレももらっとこうかな」――
こんな注文の仕方が一番ではなかろうか。
店主がすべてを決めてしまう、おまかせほど退屈なものはない。
あの手の料理は結婚披露宴あたりに限定してほしいものだ。
自分たちの食いモンくらい自分で決めなきゃ。
今の世の中、だらしないオトコが実に多くなった。
店は決められても料理を決められないヤツばかり。
ケッ、情けなや。
それじゃホントにいいオンナはついて来やせんぜ。
常日頃、焼肉ばっかり食ってるからそうなるんだ。
「まぐろのヌタ、もらいましょうか」
「ええっと、ちょっと待ってくださいよ」
まな板に包丁を置いた亭主が冷蔵庫の扉を開けた。
「ああ、できます、できます」
料理同様、造り手にも気取りがない。
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器がいかにも昭和の小料理屋風
photo by J.C.Okazawa
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亭主曰く、近所に油を売りに行った女将サンが戻ってきた。
「しょうがないなァ、お前。お客さんがいらしてんだよォ」
「ハイ、ハイ、今すぐに」
微笑ましい限りで、さっそく女将に燗酒をお願い。
銘柄は菊正宗ときた。
ついでに新いくらと煮しめを追加する。
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この時期よく出回る新いくら
photo by J.C.Okazawa
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本来こうあるべき姿の煮しめ
photo by J.C.Okazawa
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江戸庶民が好む味には菊正がよく合う。
甘辛さが強調されており、
上品な京風炊き合わせの対極にある味付け。
こんな料理をスッと出せる店がいかに少なくなったことか。
われわれ2人が占有していた店に常連サンが独りで現われ、
ビールと秋刀魚の塩焼きを注文した。
聞くともなしに聞いていた友人が秋刀魚に追随する。
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尾頭(おかしら)付きの秋刀魚
photo by J.C.Okazawa
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塩焼きに酢橘(すだち)と大根おろしは必要不可欠だ。
チマチマせず、こんもり盛られたおろしがエラい。
秋刀魚を少々おすそ分けいただくとして、さらにもう1品。
壁の品書きに見とめたキャベツの浅漬けを所望。
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浅漬けにはハジカミが添えられて
photo by J.C.Okazawa
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晩酌時、めったなことではごはんを口にしないが
新香・漬物の類いはほしくなることしばしば。
ことに手造りの浅漬けはありがたい。
お勘定は2人で7千円ほど。
以前は花街として栄えた大塚もめっきり活気を失い、
飲食店の料金は下落の一途をたどっている。
怖いアンちゃんがバッコする六本木・西麻布に別れを告げ、
大塚の町で遊んでみませんか、エッ、若い衆?
悶着あってボコボコにされる心配なんか
まったくありましぇ〜ん。
=おわり=
【本日の店舗紹介】
「一松」
東京都豊島区南大塚1-56-2
03-3944-4649
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