第1162回
婆ちゃんの煮魚 孫のばらちらし
「かぐら坂新富寿司」はJ.C.がリピートする数少ない店。
敷居をまたいだ回数は限りない。
だのに、昼訪れたことはなかったので
初めてのランチにうかがう。
実はその夜、当店において仲間の食事会が予定されていた。
今を去ること十数年余り。
現在も続いているTBSの朝のラジオ番組、
「森本毅郎スタンバイ!」のウォールストリート情報に
ニューヨークから電話出演していた当時のメンバーと
担当ディレクターによるリユニオンだったのである。
ワイン好きが多いので当夜飲むワインを
持込みついでのランチ作戦に踏み切った次第だ。
これにはオチがある。
当初、シャブリ協同組合の1級畑と
D・ローランのフィクサンのはずが
自分の手違いでコルトン・シャルルマーニュを
紛れ込ませてしまい、宴会時に判明したものの、あとの祭。
自己責任の大赤字になっちゃった。
本来このボトルは別件の忘年会で使う予定のもの。
実にトホホのホでございましたとサ。
それはそれとして「新富寿司」の初ランチ。
ワインの持込みを手伝ってもらったM山クンは
若き当主、R太郎の手になるばらちらし。
去年から始めた新メニューは品書きにも唯一、
オススメと明記されていた。
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個性的なルックスのばらちらし
photo by J.C.Okazawa
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タネを数えてみると
まぐろ赤身ヅケ・小肌・穴子・いか・煮帆立・海胆・
子持ち昆布・いくら・玉子・葉わさび
といったところが確認でき、なかなかに充実している。
下世話な表現をすれば、けっこう“金目のモノ”が散見された。
赤身のヅケを1切れ略奪したら胡麻醤油に漬けてあった。
見た目は少々、華やかさに欠けるものの、
実直なばらちらしである。
しかもこれが千円ポッキリ、お値打ちと言わずして何と言う?
さてJ.C.の目の前には名物婆ちゃんの手になる和定食。
婆ちゃんの定食は常に煮魚定食でさらに安価の900円也。
その日の主役は赤めばるだった。
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小ぶりながらも尾頭付きの赤めばる
photo by J.C.Okazawa
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甘辛さもほどほどによい味がしみ込んでいる。
副菜にも手抜かりなく、
サラダ・ひじき・ぬか漬け、みな丁寧なシゴトぶり。
カウンターの隣りの席に女性が独り着席した。
真横に座られると、近すぎて尊顔を拝するのが難しい。
物理的に上下の盲点を表す“灯台もと暗し”に対し、
左右の盲点となるこの状態を“隣席のぞき難し”という。
ただ、周りの雰囲気から醜女(しこめ)よりも
美女である可能性が高いように思われた。
何となれば親方・R太郎に緊張の色が走ったからだ。
そういう無意識の行為を見逃すJ.C.ではない。
「これ、Rの字、そちもなかなかの好きモノよのう、
フッフッ、フォッフォッ、フォワ、フォワッハッハ」
その美女、いや、かりそめの美女としておこう。
彼女が頼んだのも煮魚定食である。
しかも「サラダ抜きでお願いします!」などと、
若い娘としては意想外なことを口走った。
「ハイ!」――R太郎のヤツ、よいお返事だこと。
運ばれた彼女の膳を盗み見(この角度なら簡単)したJ.C.、
危うく椅子からもんどり打って転げ落ちるところであった。
何と、何と、もひとつオマケに何と、
サラダの代わりに刺身の小鉢が君臨してるじゃないのっ!。
おい、おい、それならオイラもサラダ抜きにすりゃよかったぜ。
R太郎の野郎(だんだん口汚くなってくる)、
近頃やっとこさ身を固めたっていうのに
若いオンナにゃ、からっきし弱いんだから・・・。
まったくもってオンナ好きには
つける薬がございませんな、ったく。
【本日の店舗紹介】
「かぐら坂新富寿司」
東京都新宿区神楽坂4-4-17
03-3268-2644
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