「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1176回
あの店は月間チャンプ足りえたか?(その2)

新橋は烏森神社そば、その名も「新ばし しみづ」で
つまみからにぎりに移行するところ。
お銚子の白鷹がカラになり、同じものでもよいけれど、
何だか冷やが飲みたくなって銘柄を訊ねると、
三重の天遊琳との仰せ、深くうなずいて所望する。

この店はほどよく熟成させた本まぐろの赤身が一番。
フード・ダイアリーをひも解き、
前回の記述をチェックすると、やはり赤身に二重丸だ。
常々、最初の1カンは白身と決めている。
この日は平目の昆布〆と生の真鯛のみ。
昆布〆はつまんだから真鯛でスタートした。

「鮨に食う順番なんかありゃしねェ、
 好きなモンから食えばいいんだ」――
こういう人たちをけして軽蔑はしない。
しないが、尊敬はもっとしない。
中とろや海胆で始める食べ手は不幸だ。
誤解を怖れずに極言すれば、哀れですらある。
物事には作法があり、傍で見ていて醜いものは悪である。
と言ったのは、九段下「寿司政」の新子を愛した山口瞳。
西洋料理だってスモークサーモンの前に
ローストビーフは食べまいに。

さて、「しみづ」の真鯛であった。
そこそこに脂がのって食味はけっこう。
噛むとミシミシっとくる食感はもっとよい。
続いての小肌は以前に比べ、酢も塩もかなり強まった。
意識して変えたのだろうか、ちと疑問符。
光りモノには目が無く、お次は春子。
これまた小肌同様に〆っている。
それではと、おぼろカマせで頼んださよりは
さすがに繊細なサカナには丁寧な対応。
ただし、おぼろはかなり甘めで
酸味・塩味に追従するごとく、味が濃くなっている。

ここで貝の3連発。
赤貝はほどよいサイズにして滋味深い。
貝類の中でもっとも味に深みのあるのがこれ。
この貝は大きければよいというものではなく、
大は小を兼ねず、小が大を凌駕する。
みる貝は本みる、いわゆる黒みる貝と呼ばれるミルクイだ。
安価な代用品の白みる貝はナミガイが正式名でミルクイではない。
“一食瞭然”、黒みるは白みるの及ぶところではない。
煮はまぐりも絶好のサイズ。
「しみづ」の煮はまはどこをかじろうが
硬さにムラのないのが特徴。
酢めしとの一体感が生まれ、口どけのよいにぎり鮨となる。

待望の赤身である。
「オヤ? 熟成がイマイチだぞ」――軽く肩透かしを食らった。
舌を刺激するヘモグロビンの酸っぱさがさほど感じられない。
上等ではあっても期待が大きすぎたぶん、反動も小さくない。
気を取り直しての蛸は上手に煮てあり、粗塩でいただいた。
寒ぶりヅケ・中とろと継ぎ、穴子は塩と煮ツメの半々で。
おぼろとわさびを巻き簾で巻いてもらい、
ドルチェ代わりの玉子で締めて
完璧とは言えないまでも満足の一夜であった。

ものはついで。
向かいの「P.M.9」に流れた。
前述の通り、マダムは親方の女将さんで
ほかにはバーテンダーが1人だけ。
ジンとブランデー、ベースのスピリッツが替わるだけで
あとはレシピが一緒のホワイトレディとサイドカーを
どちらもコアントロー少なめのハードシェイクでお願い。
上々の仕上がりにより、修業をきちんと積んできたことが判る。
鮨が一流でも同じ経営下のバーが駄目では
口さがない連中に突っ込まれるだけ、突っ込まれちゃうものね。


【本日の店舗紹介】その1
「新ばし しみづ」
 東京都港区新橋2-15-10
 03-3591-5763

【本日の店舗紹介】その2
「P.M.9」
 東京都港区新橋2-15-13
 03-3509-9720


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2011年1月6日(木)

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