「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1197回
神保町でフレンチナイト(その2)

神田神保町のおばんざい屋「やまじょう」で仏料理の夕べ。
腕をふるったのはフランス帰りのH大シェフだ。
アミューズに続いての皿は
真いかとずわい蟹のにぎり鮨仕立てである。
真いかは何のことはない、するめいかのこと。
その名の通りにするめの原料となるポピュラーないかである。
するめいかを名乗らせると、干しするめと誤解される由、
いつの頃からか、真いかと呼ばれるようになった。

名の由来はともあれ、このアイデアは大成功。
J.C.がもともと蟹好きということも拍車をかけて
満足のゆく1皿に仕上がった。
和食におけるいかの刺身はほとんどの場合、
短冊やそうめんなど、細切りにされるが
H大シェフはヒラヒラの薄切りにしてきた。
一風変わった食感が歯に舌に清涼感を生む。

〆さば風のさばのマリネはあまり意味がない。
この国では真っ当な鮨屋はむろんのことに
居酒屋・大衆酒場でもかなりのレベルの〆さばにありつける。
パリのフランス人には受けても東京の日本人は驚かない。
しいて〆るならばニシンであったろう。

お次の赤貝はよかった。
細かく刻んでタルタル状にし、
韓国料理のユッケよろしく卵黄のトッピング。
あまり手を加えられることのない貝の王者・赤貝も
こうして食べると新鮮味が増すというものだ。

シャンパーニュから白ワイン、
そのあとに数種の赤ワインと飲み継ぎ、
ディナーもいよいよ佳境に入ってきた。
金目鯛のソテーはそれなりに美味しいが、いささか凡庸。
フランス人には目新しい食材も日本人には退屈なのだ。
2年前のフレンチナイトはマナガツオだった。
そのときのように市場にあまり出回らないサカナを
さばいてほしかった。

主菜は金華豚のロースト。
低温でじっくりと熱を入れて仕上げたものだ。
ここ数年、日本各地の銘柄豚が美味を競い合っている。
それに加えて外国からはスペインのイベリコ、
イタリアのチンタセネーゼ、
はたまたハンガリーのマンガリッツァと
多彩な顔ぶれが輸入されてもいる。
牛や羊や鶏肉にこの傾向は見られず、
豚肉だけの奇妙な現象と言えよう。

山形産の金華豚はきめ細やかな脂身と赤身のバランスに優れ、
当夜のベストディッシュと相成った。
そして最後に味わったシャトー・ド・テルトル1975年の
すばらしいこと、スゴいこと。
マルゴーの5級畑ながら三十有余年を経て
わびさびをその身にまといつつ、古武士の如く枯れていた。
これだからボルドーワインは怖い。
怖いけれども、ボルドーの熟成を待つに人の命はあまりにも短い。

こうしてフレンチナイトは更けていったのでした。
デセールはどうした? ってか?
それが記憶にないんですよ。
丹波の黒豆を1粒、2粒つまんだかもしれないが
おそらく隣りの甘党にくれてやったものと思われます。
この時点で相当酔いしれていたにもかかわらず、
ほかの客が帰ったあとも、H大&M由子のカップルと
夜中までグラスを重ねたのでありました。
これじゃ思い出せんわ、いかんせん。


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2011年2月3日(木)

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