「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1198回
イメージチェンジの焼き鳥屋

神保町「やまじょう」で仏料理の晩餐後、
シェフのH大と恋人のM由子と3人で
夜が更けるのも厭わずに飲み語らう。
パリに棲む2人の短い里帰り中は
互いに日程のやりくりが大変らしい。
アレもやりたい、コレもやりたい、
アソコに行きたい、ココにも行きたい、なのであろう。

そこを何とか折り合いをつけ、
急遽、2日後に焼き鳥を食べようということになった。
2人の好物の鮨ではなく、焼き鳥としたのにはワケがある。
入谷「鳥昭」の焼き鳥は
必ずや料理人・H大の心の琴線にふれるものと信じたからだ。
上等の江戸前鮨をパリで食べるのは不可能に近いが
粋を極めた焼き鳥もまたパリにはない。
この店のそれはH大のシゴトに利するところ大きかろう。

しばらくぶりで「鳥昭」の敷居をまたぐと、何やら雰囲気が違う。
目の前のカウンターにズラリとワインのボトルが並んでいる。
おや、これはどうしたことだ。
オマケにBGMはモダンジャズときたもんだ。
さっそく店主のM島クンを問いただすと、
年明けから焼き鳥&ワインバーのコンセプトを
取り入れてみたとの仰せである。
もともとこんな感じの店にしたかったそうなのだ。
ふ〜ん、じゃ、独立開業してしばらくは
猫をかぶって様子見を決め込んでいたんだ。
客がついてそろそろ自分のやりたいことを
始める自信がついたんだ。

いいでしょう、いいでしょう、以前のスタイルなら
東京中に掃いて捨てるほどあるものなァ。
ただし、彼曰く、BGMは昔からずっとジャズだった。
「エッ、ほんと? ちっとも気づかなかったヨ」――
自慢じゃないがこのJ.C.、自分で言うのもなんだけど、
鼻と舌は敏感なのに、耳が遠くて困ってる。
よく行く新派の芝居なんざ、
遠い席だと台詞は半分しか聴こえてこない。

とまれ、今宵は遠来のカップルに
ここの焼き鳥を食わせたかったのだ。
生ビールのあとはファルネーゼの
モンテプルチアーノ・ダブルッツォを抜いて
串を打たれたニワトリの稀少な部位に没頭する。

モツ好きのH大は、はつもと・背肝に感を動かし、
モツが苦手のM由子は、ささみ・ふりそで・ねぎ間がお気に入り。
仲よく東京屈指の焼き鳥を堪能している。
こちらは2人の満足顔を眺めながら
グラスを傾けるのが何よりの歓びだ。

焼き鳥のあとは田原町のカラオケスナック「B」へ直行。
歌唱力抜群のM由子には明菜の「DESIRE」をリクエスト。
「NHKのど自慢」に出たら合格間違いナシの太鼓判である。
これも歌上手のママには高橋真梨子の「はがゆい唇」をお願い。
五十路も半ばを超えたというのに残光輝けり。
そう、そう、マイクより包丁が得意のH大が何か唄ったが
まったく覚えちゃいない。
可哀想に――。
カラオケをあまり好まぬJ.C.もおつき合いで1曲。

今夜のうちに群馬県・大田に帰省するH大と
彼を上野駅に送るM由子が去ったあと、
さてそろそろと腰を浮かせたところに現れたのが
浅草ホッピーロードの名物店「正ちゃん」の大将の正ちゃん。
即、飲み直しと相成って当然の如くに
時計の針は日付変更時刻をまたいだ。

したたかに酔いしれてタクシーの後部座席。
酔眼で携帯メールをチェックすると、
3時間前にM由子から着信アリ。

 鶏肉、とても美味しくって最高でした。
 私の銅メダルはふりそで、銀はささみ、
 金はJ.C.の「街のサンドイッチマン」でした。

ハイ、ハイ、最近の若い娘は
オヤジのくすぐり方をちゃ〜んと心得ておりますな。
見え透いたお世辞と知りつつも
なぜか心温まる“深夜便”ではありました。

 ♪ 俺らは街の お道化者
    とぼけ笑顔で 今日も行く ♪


【本日の店舗紹介】
「鳥昭」
 東京都台東区入谷1-26-7
 03-6325-8631


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2011年2月4日(金)

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