「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1201回
フードより フーゾク盛んな 錦糸町(その1)

野暮用を済ませ、独りたたずむ根岸の里。
香川照之がドラマで演じた正岡子規ゆかりの土地である。
根岸の里といえば聞こえはいいけれど、
早いハナシがJR山手線の鶯谷駅前。
上野と日暮里の間のちっぽけな駅にも
朝夕のラッシュ時だけは京浜東北線の電車も停まる。

この日の夜は錦糸町のすみだトリフォニーホールで
福原彰美のピアノリサイタルを聴く予定。
それまでの数時間をはて、どう過ごしたものか?
思案投げ首で視線の定まらない目の前に
ラブホテルが手招きしながら林立している。
そうだ、ここは東京の誇る(?)一大ラブホ街だったのだ。

隣りに格好の相手でも控えていれば、
ほんのイットキ、休み憩うところなれど、
あいにくの手駒不足では妙案も成立しない。
電話一本でそのスジの女性が参上仕るが
おあいにくさま、当方、フーゾクにはトンと興味がない。
ただし、紅燈街を訪ねるのは大好きだ。
生まれるのが遅すぎて東京の色里は知らないものの、
洲崎・玉の井・鳩の街、名残りをしのんで今もほっつき歩く。

若い頃はもっぱら異国の街をさまよった。
世界にその名を馳せるハンブルグのザンクト・パウリ、
アムステルダムの運河沿い、興味つきない飾り窓ではある。
でも断トツはトルコのイスタンブール。
ここはホントに翔んでるイスタンブール。
石ころだらけの坂道に娼家の灯が連なり、
あんなに哀愁漂う赤線地帯はほかのどこを探してもあるまい。

アディスアベバの街も情緒が深かった。
エチオピアは神秘の国である。
コーヒー色の肌をした人々も神秘の瞳に憂いをたたえて
他のアフリカ諸国とは似ても似つかぬ風貌を持っている。
女性たちの美しさは特筆に価するのではないか。

ハナシを元に戻そう。
ラブホ街を眺める視線を突然さえぎるものがあった。
都営バスが目の前に停まり、その行く先は亀戸駅前である。
亀戸は錦糸町の隣り駅、渡りに舟、もとい、
停留所にバスとはこのことで反射的に乗り込んだ。

広重も描いた藤棚と太鼓橋が有名な亀戸天神で下車し、
参詣後、向かったのは錦糸町南口の「亀戸餃子」だ。
亀戸本家の支店ということだが訪問は今回が初めて。
言うまでもなく錦糸町はフーゾクと競馬の街である。
陽は西に傾きつつもまだ明るい。
明るいけれどもビールしかない。

ビールとともに餃子を頼むと、
女将に「1枚?2枚?」と訊かれた。
本家は2枚からだが、あちらは真の餃子専門店、
ほかには何一つ食べるものがない。
こちらは麺類や炒飯があるからこその融通であろう。
ビールのアテには1枚でじゅうぶん。
でも何だかケチ臭いので2枚にした。
ささやかなミエは愚かなミエでもある。

小ぶりな餃子は1枚5カン付で250円。
10カン食べても胃に負担は掛からない。
女将が中国人の料理人に日本語を教えている。
「ドウイタマシテ」
「違うでしょ、どういたしましてでしょ」
「アッソウ、ドウ、イタマシテ」
「日本語上手って言っといて、ちっとも上手かないじゃないのっ」
二人の掛け合いがトンチンカンにしてユーモラス、
思わず失笑の場面たびたびであった。

壁の品書きに
ビール・・・大550 中450 小350
ライス・・・大250 中200 小150

とあって実に明確。
通常、(小)は(大)より割高のハズ。
細かいことながら、こういう店は良い店である。
フーゾクの街・錦糸町に来たら最初のビールはここに決めたが
競馬の開催日はかなり混むらしい。

          =つづく=


【本日の店舗紹介】
「亀戸餃子錦糸町店」
 東京都墨田区江東橋 3-9-1
 03-3634-9080


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2011年2月9日(水)

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