第14回
ブランドケーエイ学1: お客様は神様?

ステージに上がるたびに「お客様は神様です」と言っていた
国民的歌手を覚えているだろうか。
おかげでこのキャッチフレーズは日本中に普及したけれど、
その不功績をたたえて、ぼくは彼に、国民不名誉賞をあげたい。

「お客様は神様」という言葉は、「どんな場合も金を払う者がえらく、
金を受けとる側はつねに下僕だ」という考え方と直接に結びついている。
かりに上下関係という枠組みを認めるとして、
買い手がつねにえらいと、どうしていえるのか。
商品(サービス)が、対価と釣り合っているとき、両者は対等だろうし、
対価を上回っているときは、むしろ売り手の方がいばってよいのではないか。

ぼくは、上下関係のなかで仕事をすることがキライだ。
双方が満足するからこそ取引が成立するのであり、
ふつうは、商品(サービス)と代金のバランスがとれている。
売り手も買い手も対等なはずだ。

このような考え方だからといって、相手に不遜な態度をとるわけではない。
有能な人と出会えたときの期待感。この人のおかげで仕事ができたという感謝。
満足がいく仕事ができたときに感じる人生の幸福。
そういうことがあるから、仕事が楽しい。

よい仕事を納めても、まったく感謝の気持ちを持たないお客さんに
出会ってしまったときには、我々もがっかりだ。
そのような場合、今後の仕事については優先順位を下げるし、
料金にも「いばられ料」を上乗せしたい。

「お客様は神様」を徹している代表的な業態は、デパートとホテルだろう。
これらの業態では、お客のわがままを肯定し、どんなときも深々と頭を下げる。
おちろん、そのような態度に心が入っているわけがない。
単なる客あしらいの知恵と考えているか、従業員の人間性を軽んじているのか、
どちらかである。

GAPやLLビーンでは、頭を下げる代わりに、「こんにちは!」とほほえんで
客を迎える。顧客とフレンドリーな関係をつくろうという、
ブランドの考え方の現れだ。
新しい文化は、もうはじまっているのである。


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