第26回
組織ケーエイ学9: 従業員vsお客さん。

創業まもなく、経営方針だなんて考えてもいなかったころ、
元気のよい印刷会社の女社長に出会い、
彼女から非常に多くのことを学んだ。
タクシーのなかで、彼女が言っていた忘れられないことの一つに、
従業員とお客さんがケンカをした場合に、どちらの肩を持つか、
という話がある。

「それはケースバイケースでしょう?」
まだ「お客さまは神様」という一般通念を、
頭から追い払うことができなかった頃である。お客さんをとって、
従業員を叱ることもあるかな、と想像していたぼくに、
彼女はあっさり「私は、従業員につく、と決めている」という。

「私の商売では、よくあることなのよ。
そりゃ、ケースバイケースでいろいろあるでしょうけど、
私にとっては従業員が一番大事。
だから、まず従業員の味方をしてがんばる、と決めてるの」
「でも、お客さんを失いますよね?」
「なに、お客なんて離れていっても、また別の客をつかめばいいのよ。
でも、そのことで従業員が辞めたら、これは痛いわよ。
かなりの戦力ダウンになるし、
それを取り戻すのに相当時間がかかる・・・」

単純な身内びいきでもなく、計算もあるのだ。
お客の前で、上司が部下を叱るという構図を、ときどき見かけるし、
なんとなく疑問も感じてはいたが、
これについての考え方を得たような気がした。
それでぼくも、「よし、そういう場合は、まず従業員の味方をしよう」
と決めた。

のちにスターバックスの本を読んで、
この考え方は多少補強されている。
スターバックスが顧客を軽視するわけではないだろうが、
シュルツ会長は、顧客本位というよりもむしろ
従業員本位という哲学を持っている。

スタッフを守ろうという考え方の延長でもあるが、
自分は、外部スタッフや業者側とは、もめたことが少ない。

さいわいにして、
その後わが社のスタッフが顧客とケンカした事例は
一度もないのだが、お客さん側(代理店とか顧客とか)とは、
ぼく自身がときどきケンカをしている。
恥ずかしいし、ソンなことだとは思っているが・・・


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