第94回
組織ケーエイ学33:恋愛と信頼と。

社員との関係が、主観的には、ほとんど愛に近いとまえに書いた。
この人とは別れざるを得ないのか?と思ったとき、今度は非常に苦しい、後ろ向きな心理に陥る。若い頃に味わった失恋のつらさによく似ている。
恋愛は人生の花、みたいなものだと思うが、その時期はまず2ヶ月。結婚生活は、恋愛が終わった後の人生の方が長い。花が散ったあとの、愛情の目減り分を、信頼のようなもので埋めていけるかどうか。

これまで2回、社員をクビにしたことがあった。どちらもパターンは同じ。いずれも30才以上の転職者で、かなり優秀な、バランスのとれた人格に見えた。この人ならば、と思って採用して2ヶ月は蜜月を過ごす。ところが3ヶ月めに、なんか変だなと気づく。優秀だという印象はぜんぜん変わらないのに、成果のきざしがいっこうに現れない。3ヶ月たって何のきざしもないとすれば、メンタリティーの問題かもしれない。このころはもう、いくつかの事実を積み重ねて、信頼を作りはじめなければならない時期だ。

いやいや自分の思い違いか、優秀な人は時間がかかるのかもしれない・・・などと決心がつかず様子を見ると、その後の3ヶ月がつらい。その人のことばかり気になって自分の仕事ができなくなる。5ヶ月たつともうはっきりわかる。やっぱりその人の、仕事についての動機、考え方、習慣、そういうものが違う。

クビにするといっても、むしろ構造的な不適合なので、どちらが言い出すかは、あまりたいした問題ではない。その人の方でも、もう気持ちが落ちている。
行政では、自己都合の退社か会社都合の解雇かで、保険給付や補助金適用の結果に大きな違いがあるが、これは失恋した人に「振ったの、振られたの?」と聞くようなもので、品がない。ミスマッチの是正を、罰するべきではないと思う。

失敗事例を結果から見ると、後半3ヶ月間の失恋プロセスは、結論を先のばしして傷口を広げただけである。一人の採用ミスはたちまち数百万円の損になるが、その間、後ろ向きの問題にこちらの頭が占領され、会社の雰囲気も悪くなり、金額に換算できないロスが大きい。
去年の暮れ、また一人、退職ねがわざるをえない事態になった。これまでの失敗に懲りているので、決断は早かったけれど、人間的にも好きな人だったので、かなりつらかった。この失恋プロセスには、ぼくにも罪がある。そのせいか、その後もなかなか立ち直れなかった。


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