一、最初のお客は佐藤春夫と檀一雄

邱飯店というと、中華料理屋の名前を連想されるかも知れないが、実は私の家の料理のことである。

私は食べることが好きで、料理に興味をもっており、「千里の道を遠しとせず」して、うまい料理を食べに行くばかりでなく、それをできれば我が家の食卓で再現しようする。また料理屋の料理だけが料理であるとは思っていないから、ふだん食べるものに気をつけており、少しでもおいしいものを、食卓に出してもらうように努力している。さらにまた、自分の家の食事は人に負けないという自身をもっているので、生来の客好きということも手伝って、友達を自分の家へ招待する。そのなかには、日本国中でこれはと思われる文人墨客や実業家たちもたくさん含まれているので、いつしか、
「あの家の中華料理はうまいぞ」
と喧伝されることになり、小説家仲間のなかには私のところから招待の電話がかかると、「やっと順番がまわってきましたか」と喜んでくれる人もあれば、もう故人になってしまったが東宝の藤本真澄さんのように、「どうして私にご馳走してくれるのですか。何が目的ですか?」と私の秘書に執拗に食いさがった人もある。
「いいえ、目的は特にございません。食いしん坊の人が集まって、ご馳走を食べ、お話をするだけです」
と私の秘書は懸命に説明して、漸く納得してもらったそうである。してみると、小説家をご馳走しても、とくにメリットがないことを小説家自身もよく知っているから、小説家は私の動機を疑わないが、実業家は商売上の便宜を図ってもらうために、人をご馳走するのが常だということになる。藤本さんの場合は映画監督から東宝の副社長になって、以後、半分以上、実業の世界にのめりこんでしまったので、「人をご馳走するからには、何か魂胆があるに違いない」
と思うようになったのであろう。

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