この運転手は、金持ちの旅行者たちを高級レストランに案内することが多いとみえ、話をしていると、レストランの情報に実によく精通している。私が家族連れで、パリやリヨンの有名料理店を歴訪してきたことを知ると、
「自分にとって、『ミシュラン』はバイブルみたいなものですよ。商売に直接役に立ちますからね」
「『ゴーミヨー』というのはどうですか?」
と私はききかえした。私は新しく出た『ゴーミヨー』の案内書を買ったばかりだったし、現にこれから行くムージャンのレストランの予約も、『ゴーミヨー』の社長の手をわずらわしている。
「いや、『ゴーミヨー』は商売気があるから駄目ですよ」
と運転手は答えた。
「商売気があるとおっしゃると?」
「つまり、お金をくれたり、広告してくれたりすれば、えこひいきをすると私は見ています。
『ミシュラン』は、その点、絶対買収されませんからね」

なるほどフランス人の中には、そういう物の見方をしている人もあるんだなあ、と私は一つ教えられた気がした。『ミシュラン』は、ご存知の通り、タイヤ会社「ミシュラン」が自動車を運転して旅行したり、食事に行ったりする人たちのために、年間一億円ほども予算をかけて覆面の試食員を二十何人も動員して点数をつけている。

バリに六軒ある三つ星のレストランのうち、「マキシム」があまりにも観光ずれして料理の質が落ちたので、二つ星におとすといったら、それではカッコがつかないから、いっそガイドブックから削除してくれといわれたといういきさつもある。そういう頑さがあるだけに、いっぺんこうと思い込んだら、いつまでも自分の主張に固執するから、点数のつけ方が保守的だという批評もある。
その点、『ゴーミヨー』は、リヨン出身のゴーとミヨーという二人がはじめたホテルとレストランの案内書で、歴史もほんの十数年ばかりだから、商売人的な面もあろうが、新進気鋭らしい長所もないではない。

たとえば、バリの三つ星「グラン・ヴェフール」を格下げ(『ゴーミヨー』の場合は、最高四つ帽子がグラン・ヴェフールの場合は二つ帽子)にしたが、その理由として、同店の主人レイモンド・オリヴェー氏がキッチンに立たなくなってから既に十数年もたつのに、シェフに権限をあたえないために、料理が十数年前の線でストップし、なんら進歩していないことをあげている。

その点『東京いい店うまい店』も、同じように、後進に属するから、どちらかといえば、『ゴーミヨー』の線に近いし、『ゴーミヨー』ほど商売的ではないかもしれないが、日本的義理人情とか、執筆者の個性に大きく左右きれるところはあるにちがいない。そういう意味では、日本に『ミシュラン』に類する公正な案内書が新しく誕生する余地があるような気がする。現に『東京いい店うまい店』の上にあぐらをかいてノホホンとやっている老舗に腹を立てて、「東京まずい店高い店」という特集を組んで人気をさらった雑誌も既に出現している。これまた出るべくして出た好企画といってよいのではあるまいか。

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