三十一、紅焼大網鮑と砂鍋大排翅

シロウトからはじめて、クロウトはだしの料亭になったお店は少なくない。私の知っている範疇でも、京都の「雲月」がそうだし、台北の「馥園」がそうである。双方とも女性だけでやっているのが共通しているし、片一方がおかあさんを引き込んでいるのに対して、もう一方は妹たちを引き込んで、自分たちなりの創意工夫をこらしているのも共通している。食いしん坊はどこがうまいかをよく知っていて、「歴史をもっている」とか「世間によく知られている」とか、そんなことにはまるでこだわらない。うまくて、雰囲気がよくて、サービスもよくて、そのうえ値段も合理的であれば、お客はどんどん押しかけて行く。いまあげた二軒は、三つ目まではよろしいが、お値段のところまでくると、残念ながらサラリーマンがサラリーをもらった日にだけ出かけていくということになる。
料理屋を女だてらに開こうと考える人には、ソロバンのセンスもあって、一握りのエリートしか相手にしない。「馥園」の紅焼網鮑はなかなかよくできていて、香港の「福臨門」にも劣らないが、一人に一個のアワビが千三百元というから、一個約八千円になり、十二人で一皿食べただけで、十万円になってしまう。だから、アワビが出てきただけで今夜の料理はお金がかかっているぞということになるが、アワビを注文しなければ、一人前だいたい千元(一元=六円)だそうである。日本の基準からみたら、約四分の一か、五分の一だから、やはり中華料理は日本料理に比べると、割安ということができよう。
私の家は、一見さんは来ないし、そもそもお代はいただかないのだから、料理の値段の心配は要らない。お客をするといっても、多くて月に三回か四回だから、いくらゼイタクな材料を使っても元は知れている。しかし、私の家ではよく紅焼網鮑も出すし、砂鍋大排翅も出すし、燕窩羹も出す。アワビは、日本料理でも、もちろん、高級料理に属するが、日本料理のアワビは生のアワビであり、値段は高いうちに入らない。料理の仕方も、生のままぶった切りにして食べるか、酒蒸しにして、ワサビ醤油で食べる程度である。

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