誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第28回
人間のしつけも犬猫と同じ

母方の祖母は早くに死んでしまったため、後妻が迎えられた。
母たち兄弟姉妹はこの後妻によって育てられ、
孫の私たちにとっても、ばあさんといえば、
強烈な個性を持ったこのばあさんが、
親戚じゅうのばあさんの右総代であった。
この継母は誰が呼んだのか「いいばあちゃん」と呼ばれた。
いいばあちゃんといえば
近所に住む母の実家のばあさんのことを指した。

他のばあさんがみな欲深の「わるいばあちゃん」であったら、
出来損ないの童話みたいになってしまうが、
いいばあちゃんは他のばあさんより、
しつけがいくぶん厳しかった。
親戚じゅうから親しみをこめて
いいばあちゃんと呼ばれてはいたが、
私たち孫にとっては手強い畏怖すべき存在であった。

今でも覚えているが、
食事中、変な食べ方をしていると、
向かいに座っているばあさんが、
「箸づかいがわるい!」といって、
自分の箸の上部で、子供たちの右手の甲をピシリと叩いた。
あれは痛い。
まるで遠慮のない叩き方で、
姉などはやられるたびに目に涙をためていた。
箸の持ち方がわるいとピシリ。
迷い箸、さぐり箸をしてもピシリ。
ばあさんに一番可愛がられた長兄が、
思えば一番の犠牲者だった。

テレビの時代劇を見ていると、
箸を満足に持てないサムライなどが出てきて苦笑させられる。
いっそスプーンにしたらと同情したくもなるが、
時代劇ではそうもいかない。
物の本によると現在のような二本箸の形になったのは
奈良時代からだそうで、古代の箸は竹製の一本箸。
それをピンセットのように折り曲げて使ったという。

箸の持ち方にしろ障子のあけたてにしろ、
しつけというものは身体につけるものだとしみじみ思う。
一度身体に滲み込むと忘れないもので、
しっかりしつけられた人は身ごなしも美しい。
現代はよろず合理精神が優先され、
箸の持ち方などうるさくいわず、
「食べられればいいじゃん」という
結果オーライの考え方が広く支持されている。
しつけ役のじいさんばあさんも、
孫にきらわれたくないとだんまりを決め込んでいる。
事なかれ主義に徹したジジババは、
畏怖され一目置かれることもなく、
ついには子や孫から侮られ、
無用の長物と見捨てられてしまうだろう。


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