誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第77回
今は懐かしき思い出 (その二)

「男子厨房に入ろう会」などという
のんきな集まりがあるそうだが、
趣味でお料理を勉強しましょう、といったレベルでは
毎日の台所仕事はつとまらない。
こちとらお上品な「料理」を作るのではなく
「おかず」をこさえている。
安い・早い・うまい――
まるで牛丼屋のキャッチフレーズだが、
少なくともファストフード並みの手際よさがなければ、
主夫業などつとまろうはずがない。

「わかっているだろうけど、うちは五時半が終業なんだ。
 そう毎日のように早退されたんじゃ困るんだよ。
 周りにも示しがつかないし……
 居眠りをしててもいいから五時半までは居てもらわないと」
女房が上司に呼ばれきつくお灸をすえられた。
お説ごもっとも。
反論の余地がありませぬ。
世間知らずのアグネス・チャンであれば、
「そうまでいうなら社内に保育所をつくるべきよ。
 不当労働行為ふんさ〜い!」
などと威勢がいいのだろうけれど、
そう身勝手ばかりいってられない。
周囲も「二重保育を頼んだら」とする声が圧倒的だし、
事実みなそうやって急場を凌いでいた。

しかし私たちは二重保育は選択しなかった。
ただでさえ淋しい思いをさせているのに、
これ以上幼い心に負担をかけたくない。
(そろそろ潮時かな……)。
ごく常識的に考えれば、ここで女房が家庭に入り、
内職にでも精を出してもらうところだろうが、
わが家は逆で、男の私が家庭に入った。
そしてフリーライターの手内職。
兼業主夫の誕生である。

思えば雑誌屋稼業なんて因果なものだ。
好きで選んだ道とはいえ、
月に100時間以上の残業ではいささか身にこたえる。
なかには180時間なんて猛者もいて、
それを誇らしげにふれ回っていたりする。
女房に逃げられた男が、
周囲に掃いて捨てるほどいる職場というのは、
いったい何なのだろう。

退社したことを実家の母に告げたら、
「ひとつ会社に定年まで勤め上げてこそ
 男の甲斐性というものでしょ。あたしゃ情けないよ」
と泣かれてしまった。
なにも女房を働かせ、
髪結いの亭主におさまろうというわけでもないのに、
男が家庭に入るのはよほど世間体がわるいらしい。
あれから早20年。
今じゃすっかり主夫業も板についた。
保育園育ちの娘二人もつつがなく育ってくれた。
長女は今年、成人式を迎えた。


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