誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第78回
異国で国歌を口ずさむ

長女は高二の時、一年間イタリアに留学した。
トリノの近くのジャヴェーノという小さな町で、
ごくふつうのサラリーマン家庭のM家に
ホームステイさせてもらった。
M家は夫が銀行員で、妻は高校教師。
二人の息子がいて、
長男は娘と入れ違いにアメリカに留学中だった。
娘は奥さんが通う高校へ毎日通学した。
当然ながら、最初の三カ月間は
家でも学校でもイタリア語がちんぷんかんぷん。
かろうじて英語で意志を通じ合ったという。

M家はお世話になるには理想的な家庭で、
めしはうまいし、家族はみな親切だった。
一方、アメリカに留学したM家の長男は
メールでしきりにこぼしていたという。
めしがまずいというのだ。
そのことだけでも、イタリア人は絶望的な思いにかられるらしい。
実は、長女(現在大学二年)は今春、
休暇を利用してニュージーランドに語学留学したのだが、
そこで世話になったホストファミリーの食事が、
M家とは対照的にひどいものだった。
毎日パンばかりで、昼の弁当も地味なサンドイッチ。
具がレタス一枚という日もあったという。

アメリカに留学する日本の若者の多くは、
いわゆる電子レンジでチンとやる
“TVディナー”に悩まされるという。
来る日も来る日もレンジでチンでは、さぞ味気なかろう。
しかし、それもアメリカの食文化の一面なのだから、
むげに否定するわけにはいかない。
目の前の食べ物にはある種の無関心を装うのがお行儀がよい、
とされるイギリスなどはもっとひどいというから、
こればかりはキリがない。
自分たちが豊かな日本で、
いかに恵まれた食生活を送ってきたか、
彼我の違いをあらためて思い知るだけでもめっけものだろう。

留学の成果はいろいろあった。
イタリア語がしゃべれるようになったことなど
何ほどのこともない。
ちょうど日韓主催のワールドカップサッカーがあった年で、
サッカー好きのM家は連日テレビの前で大騒ぎだったという。
イタリアが韓国に負けたときは、さすがに妙な雰囲気になり、
町でもすれ違いざまに「コリア!」
とトンチンカンな罵声を浴びせられたこともあったというが、
娘は気にしなかった。
日本戦では思わず国歌を口ずさみ、涙ぐんだという。
かつてないほどに日本という国を愛おしく思ったという。
娘は人並みの愛国者になって帰ってきた。
私にはそのことが、何にも増して嬉しかった。


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