誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第89回
トロをほおばる子供たち

日本は前代未聞の子供天国だ。
高級レストランに行けば、
くちばしの黄色い娘っこが
ソースのお味はどうのワインの香りはこうのと、
舌足らずのうんちくを傾けているし、
電車内にあっては、オムツが外れたばかりの小中高生が、
場所柄もわきまえず、大声でしゃべったりバカ笑いをして、
大人たちのひんしゅくを買っている。

一方、欧米社会では、夫婦が生活の基本単位で、
子供たちは“おまけ”というか、
大人になりつつある半人前の動物と位置づけられている。
だから、父母と一緒に高級レストランに行くことはないし、
観劇やコンサートにも縁がない。
以前、ヨーロッパの星付きレストラン数十軒をめぐった話を
披露したことがあったが、
どの店にも子供はおろか若者はいなかった。
高級レストランは経済力のある大人のための世界で、
まだ親がかりの学生や子供はハンバーガーでも食っていろ、
ということなのだ。
大人と子供は完全に棲み分けられているのである。

イタリアに留学した長女は、そのことを身をもって体験した。
身につけるものといえば、
着古したジーンズにTシャツ、スニーカー。
学生の本分といえば勉強に決まっている。
つまりいまだ修業の身なのだから、
質素倹約を旨としなくてはならない。
おいしいものが食べたければ、早く大人になって自立しろ。
欧米社会にはこうした暗黙のルールがきっちりできあがっている、
と娘は報告してくれたのである。

日本はまったく逆だ。
電車内で座らせてもらえるのはいつだって子供だし、
女学生は身分不相応のお洒落をし、
グッチやルイ・ヴィトンのバッグを持っている者さえいる。
また年端もゆかぬ子供が、寿司屋のつけ台に座って、
トロをくれウニをくれと生意気を言っている。
こっちとら、回転寿司のビントロは食えても、
ホンマグロのトロなど絶えて食ったことがない。
味覚が未発達のガキどもに、
目の前でトロを腹一杯食べられた日には、
大人の立つ瀬がないではないか。

一番おいしいものを、
いつでもどこでも食べさせてもらえる日本の子供たち。
こんな楽チンな国はあるまい。
ピーターパンみたいに、
大人になりたくないと思うのは至極当然のことだ。
日本社会のネバーランド化――
ニートやパラサイトシングルがはびこる遠因は
こんなところにもあるような気がする。


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