誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第125回
寿司は廻るもの

寿司を食べに行くというと、
近頃は回転寿司に行くものと相場は決まったようだ。
子供たちも、寿司はハナから廻るものと心得ていて、
廻らない寿司屋に連れて行くと不服そうな顔をする。
なぜ廻らない寿司屋に行かなくなったのかというと、
勘定の段になって目を回したくないからだ。
回転寿司なら明朗会計、
ふところ具合と相談しながら安心して食べられる。

もともと寿司やそばは庶民の食べ物だった。
ところが名店と称するお店の中には、
ピンセットでつまむのか、
と思わせるほどの極少量を気取って出すそば屋や、
数カンつまんだだけで
万札が飛んでいってしまうような寿司屋がある。
これでは家族連れで気軽に、というわけにはいかない。

かつて寿司の職人は、五年修業して半人前といわれたものだが、
回転寿司にはそれがない。
ネタとシャリがくっついてくれさえすれば、もう立派な握りで、
堂々とレーンに流すことができる。
客も寿司を食ったような気分さえ味わえればいい、
と最初から名人芸など期待していないので、
それこそロボットが握ろうが、チンパンジーが握ろうが、
知ったことではない。

人間、勘定が気にならなくなると、鷹揚に構え出すのか、
大概のことは気にしなくなる。
レーン上にプラスチックの蓋をかぶせた寿司ばかり
流している店がある。
寿司が乾かないようにとする店側の配慮だそうだが、
おかげで昼握られたものを夕べに食べさせられる
運のわるい人も出てくる。
また店によっては“代替ネタ”の隠し技も使われる。
アワビだと思って食べたら、
実はチリ沖で穫れるロコ貝だったり、
マダイがティアピア、イクラがマスの子だったりする。
ひどいのになると、
穴子が海ヘビの一種だったりすることもあるというから、
あんまり鷹揚に構えていると、とんでもないものを食わされる。

回転寿司は皿の色や柄で値段が決められている。
私などはケチだから、
一番安いイカやのり巻きしか食べないが、
見栄っぱりの女房が一緒だと、
世間体がわるいとばかりに、二〜三枚高い握りを混ぜたりする。
そもそも回転寿司の客たちは、
廻らない寿司屋に入りたくとも入れない身分の人たちなのに、
貧乏人同士でも見栄の張り合いはあって、
高い皿ばかり積み重ねた客は、
辺りを睥睨するかのようにそっくり返っている。
今や回転寿司は、
ささやかな階級闘争の場と化しているのである。


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