「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第6回
基礎編(1)
損をしなかった蕎麦猪口

骨董の世界では
「良い物を買いなさい。安物はだめだ。」
とよく言われる。
それはそれで真実なのだが、
今のようなデフレの時代においては
どんなに良いものでもやはり大きな損失をこうむる場合がある。
まして社会全体が大きな変化を遂げる時、
どんなものでも数大きな価格面での変化がある。
非常にシリアスな話だが僕はある大都市でこんな経験をした。

バブル以前は手広く商売を営まれ、
億を越える作品でも躊躇せず買われるコレクターがいた。
その方は私設美術館を作られたほどで、
その方が蒐集された骨董品の総額は大変なものだった。
しかし、バブルの崩壊と共に銀行の貸し渋りによって
その方の事業がうまく行かなくなってしまった。
「何とか収集品を買ってくれませんか。」
僕はそのコレクションにはあまり買ってもらっていなかったので
かえってAさんは話しやすかったのか幾度か相談を受けた。

作品を見せてもらうとはや良いものは抜き取られていて
あまり魅力的なものもなかったが2,3の作品を選ばせてもらった。
「その花生は買ったときは1200万もしたんだよ。」
とAさんが言った。
僕の値踏みでは今時この作品の売価は200万もいかないと思われた。
「すいませんね。正直この花生は良い物ですが
 私が頂くとしたら120万くらいがリミットです。」
と話すとAさんは愕然として言葉を失った。
こちらも商売だから
売却できる値段から買い付け値段をはじき出したのだ。
Aさんは資金繰りのこともあってか
花生と数点の作品を買った時の1割ほどの値段で了解した。

「私のコレクションは
 全部でどれくらいの点数があるかわからないほど持っているが、
 売る度に信じられないほどの損失があるんだ。」
「この時期ですからね。それはしょうがないんじゃないですか。
 売るタイミングをはずすと土地だって惨めなものですからね。」
と僕も同情気味に言った。
「あのね、いろんなジャンルのものをやっているが
 2つだけ損しなかったものがあるんだよ。」
とAさんはこんなこともあるんだと言うような言い方をした。
この時期どんなものを収集していても、
売れば損をすることが目に見えているので
Aさんの言う損をしないジャンルをきいてみたかった。

「蕎麦猪口を3万個ほど集めてたんだがこれは儲かりましたよ。
 昔1個2,3百円で買ったものが
 叩き売っても5千円くらいで売れましたからね。
 それにガラスのランプも。
 詰まらんと思いつつ、つい買ってしまったものが
 1000個ほどもあって、これが意外と高値で売れましたよ。
 骨董屋は顔さえ見ると良いものを買え買えと口癖のように言うが
 あれば間違いだね。」

僕は言葉を失った。
たしかにAさんの言う蕎麦猪口やガラスのランプは
若い女性やちょっとした骨董好きならば
湯飲みや向付に誰もが用いている。
そんなわけで値段もじわじわと上がり結構な値段になっている。
しかし蕎麦猪口3万個、
ガラスのランプ1000個を買って持ちこたえられる人は
そうざらにはいない。
やはりよく考えて目を養い
社会の変化に対応した骨董を見出してゆかなければならない。
Aさんも偶然が重なって
蕎麦猪口やガラスのランプを蒐集していたのだろうが
これをもっと目的を持ってやっていたとしたら
骨董ではかなりな利益を手にしていただろう。


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