杉浦秀子さんが掘り起こしてくれる
日常に埋もれた美のヒント

第82回
90歳の看板娘

銀座の近くには、昔ながらの老舗が沢山あります。
蕎麦屋さんやお菓子屋さんなどはその代表で、
そこで元気なお婆ちゃんたちが現役で店番をしています。
私の家の近くに商品がいつもキチンと整頓して置いてある
お菓子屋さんがあり、
そこに絵に書いたような可愛いお婆ちゃんがいます。
私はちょくちょくとそのお店に寄っていました。
お婆ちゃんとお近づきになりたくて、
人形焼などを買っていたのです。
この原稿を書く上で、是非お話を伺いたく、
思い切って話し掛けてみました。
「お婆ちゃん、失礼ですが、御幾つですか」
「90歳です」
私はのけぞりそうになりました。
こんなに元気な90歳がいてもいいのだろうか。
「どこか、調子が悪い、とかそういうことはないのですか」
「全然ない、どっこも悪くない」とお婆ちゃん。
私は改めて、インタビューを試みました。
「運動をしていますか」「全然していない」
「趣味はあるんですか」「全然ない」
「好きな食べ物はありますか」「特にない。何でも食べる」
「特別に気をつけていることはありますか」「何にもない」
色々な質問をしても、答えは全て「何もしてない」
「普通にしている」というだけです。
私は困りました。何もしてなくて、こんなに肌が綺麗で、
愛らしいと言われたら、一体私はどうなっちゃうの?
「普通」に生きていたらみな綺麗になれるのでしょうか。
その日私はおずおずと退散しました。

数日後、私はまたお菓子屋さんに行き、
何とかお婆ちゃんの魅力の秘訣を引き出そうとしました。
色々と話すうちに、お婆ちゃんはこう言いました。
「若い頃から、何にも変わったことをしていない」
私はここでひらめいたのです。
「何歳になったからと言って、変わったことをしない」
ことが秘訣ではないか、ということです。
若い頃と同じように仕事をし、生活をすることが
元気に明るく暮らす秘訣ではないでしょうか。
東京はこうした個人商店が多く残っています。
地方よりも、老人が働きやすい環境ではないかと感じます。
働くということは、色々な人と話すことになります。
90歳のお婆ちゃんも、「お客さんと話すのが楽しい」
と話していました。

皆がこの素敵なお婆ちゃんのような環境である、
というのは難しいことです。
特に地方は車で大型店に乗り付けて買い物をする
というスタイルになっているために、
個人店で働く機会が減ってきています。
しかし、人の多いところに出入りする、
料理をする、昔からやっていることを一つだけでも続ける、
と心がけることならば、同じような環境を作ることが出来ます。
私はこのお婆ちゃんと話をしていて、
ひとつだけ自分との共通点を見つけました。
なんと、「歌謡曲が好きで、歌番組をよく見る」ということです。
やっぱり、音楽は心弾むものなのかしら。
歌謡曲を聴くことも、素敵な環境。


←前回記事へ 2003年9月23日(火) 次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ