第93回
自惚れ鏡でほっとする
私は、自分の顔を見て「ぎょっと」したことがあります。
初めてNYに行ったときの事です。
本当に様々な人種の人間が闊歩しており、
「ここはすごい所だ」と感じました。
一週間ほど滞在して、あるお店のショーウィンドウに
映った顔を見た時に「この変な顔のアジア人は誰?」
と思ったら、何と自分の顔だったのです。
この時は本当に驚きました。
アメリカの漫画家がアジア人を誇張して書いた顔
そのものだったのです。
「私は一週間で顔が変形してしまったのだろうか。
または、他の国の濃い顔をみているうちに、
メークが濃くなってしまったのか」
その日は、そのことが気になって
観光どころではありませんでした。
人は、「自分の顔はこういう顔である」
というイメージを持っています。
女性の場合、写真写りが悪いので、
写真が苦手というのは、
自己の持っているイメージと、
実際の写真の中の自分が大きく違うためです。
NYでは、友達のアパートに居候したので、
そこの洗面所の鏡で確認をしました。
「いつもとあまり変わらない」自分を見てほっとしましたが、
何故土地が違うと自分を見ても違って見えるのか、
今でも不思議です。
NYから帰るとまた新たな発見をしました。
日本に着いたと同時に、
「ここは日本人しか居ない。なんて恐ろしい所なの。
しかも、みんな違う顔をしている」
NYで異人種を見慣れてしまうと、
日本に帰った時に自分が日本人であることも忘れ、
勝手な感想を持ったのです。
私は自分の顔がまたNYで体験した時のように、
「変な顔」になっているのではないか、
少し不安が過ぎりましたが、
落ち着いて家路につきたかったために、
鏡を一度も見ずに帰りました。
家のお気に入りの化粧台に座って、
ようやく落ち着きました。
いつもの顔が、そこにあったからです。
私は毎朝必ずそのアンティ−ク調の
可愛らしい化粧台でお化粧をします。
その化粧台の鏡は私にとって、「自惚れ鏡」だから。
女性は自惚れ鏡に映った顔が
自分の本当の顔であると信じて、今日一日を過ごすのです。
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