杉浦秀子さんが掘り起こしてくれる
日常に埋もれた美のヒント

第104回
美しい老ピアニスト

私はNYの、バリー・ハリスという
ピアニストの追っかけです。
ホームページを見ては、
「今はロンドン、来月はミラノに居るのね」
とスケジュールをチェックして思いを馳せています。
彼は70歳を超えてもなお、
自分の音楽スタイルを後世に残すために、
世界中を飛び回って音楽理論を教え、演奏を続けています。
NYでは、古いタイプのピアニストですから、
所謂、最先端の流行音楽ではありません。
しかし、実際に演奏を聴いて
私は彼のウィルスに侵されました。
「ああ、美しい。この世のものとは思えない」
それ以来、私の人生を変えました。

私のピアノには、彼と抱き合ったツーショットの写真が
飾ってあります。
毎日それを眺めては、
「少しでも近づきたい」と心の中で祈ります。
彼のレッスンは大勢のピアニストを前に教える、
というのが一般的です。
NYでは、一回千円程度で彼のワークショップを
受けることが出来ます。
日本にもワークショップに来ることもあり、
私は以前に一週間、そのワークショップを受講しました。

彼は残された人生を次の世代の人間に、
自分が学んだことを伝えようと行動しています。
私のようなちっぽけな人間でも、
彼の理論を学び、人前で演奏することによって、
彼の美しいサウンドを披露する機会がある、
ということは幸せです。
彼が世界中に撒いた小さな種の一つになっている、
名もなき、文化の継承者の一人であると思うだけで、
なんだか嬉しいのです。
私には、まだ世の中に還元するような
知識も経験も全くありません。
今、先人の残した遺産を学習している最中です。
けれど、これから年齢を重ねていく上で、
いつか世の中に何かを還元できるような人間になれたら、
これ程美しい人生はないのではないでしょうか。


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