やがて本気で好きになります

第31回
シングルトーンとブロックコードにまつわる逸話

レッド・ガーランド(p)は、
マイルス・デイヴィス(tp)のグループに所属していました。

彼が在籍した時期のこのグループは「黄金のカルテット」と呼ばれ、
当時は大人気でした。
マイルスの自伝によると、このグループを聴くために、
日夜クラブは長蛇の列だったそうです。

マイルスの長いキャリアの中では、何度かの絶頂期がありますが、
その時期のひとつにレッド・ガーランドは所属していたわけですね。

この絶頂期の演奏を捉えたアルバムは、
以前紹介した
『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』をはじめ何枚かありますが、
特にプレスティッジというレーベルに録音された
4枚のアルバムが有名です。

『クッキン』
『リラクシン』
『ワーキン』
『スティーミン』

語尾には必ず「ing」がつくことから、
俗に「ingシリーズ」などと呼ばれていますが、
その中の1枚、『リラクシン』には、
面白いシーンが捉えられています。

2曲目の《ユー・アー・マイ・エヴリシング》の演奏。
イントロはガーランドのピアノが飾ります。
彼は軽やかなシングルトーンを弾きますが、
すぐにマイルスの口笛が「ヒューッ!」と入って演奏が中止。

ボソボソとガーランドに注文をつける声が聴こえます。
おそらく、「ブロックコードで頼む」と指示を出したのでしょう。
すぐさま、ブロックコードのムーディなイントロがやり直されます。

普通だったら、最初に弾いたシングルトーンや、
マイルスのボソボソ声の部分は
カットして商品にするべきなのでしょう。
しかし、あえてそこの箇所もカットせずに、
そのままアルバムにしてしまうセンスが、面白いところ。

親分の指示ひとつで、曲のムードがガラリと変わる様や、
スタジオ内の空気感が手に取るように伝わってきます。

聴き手は、
あたかも目の前でマイルスのグループがいるような錯覚に陥ります。

ちなみに、この演奏のガーランドのイントロは
シングルトーンもブロックコードも、どちらも絶品。
その日のマイルスの気分は、
「この曲にはブロックコードが似合う」と判断したのでしょう。

親分の指示に応え、すぐさまガーランドは美しいブロックコードで
《ユー・アー・マイ・エヴリシング》のイントロを彩るのでした。

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『リラクシン』
マイルス・デイビス

1.イフ・アイ・ワー・ア・ベル
2.ユーア・マイ・エヴリシング
3.アイ・クッド・ライト・ア・ブック
4.オレオ
5.イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー
6.ウディン・ユー


1曲目の頭にはマイルスの「先に演奏する。曲名は後で教えるよ」という声が。
さらに、ラストの《ウッディン・ユー》が終わると、「もう一回演ろう」という誰かの声に対して、
マイルスの「ホワイ?」。
コルトレーンの「栓抜きはどこだ?(演奏終了、さ、ビールを飲もう)」の声が収録されています。
あえてスタジオ内での会話を残すことで、いやがおうでもジャジーな雰囲気を盛り上げている
粋なアルバムが『リラクシン』なのです。

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2005年10月31日(月)

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