やがて本気で好きになります

第34回
モンクの魅力

セロニアス・モンクの音楽の魅力は、
文字だけではなかなか伝えづらいものがあります。
実際に音を耳にしていただくのが一番手っ取り早いのですが、
なんとか頑張って文字で彼の魅力を紐解いてみましょう。

まず、彼は決してデタラメをやっているわけではありません。
考えに考えた末に音を出していますし、
聴き手の聴覚へ及ぼす異物感のようなものも、
じつは彼の計算のうちなのかもしれません。

彼のピアノは、
たとえば、抽象画のようなピアノだと思っていただくと
ニュアンスが伝わるでしょうか?

流暢で耳に心地の良いピアノを写実的な風景画や人物画だとすれば、
モンクのピアノは、ピカソやミロのような抽象画。

ピカソもミロも
決してデタラメな絵を
キャンバスに描きつけているわけではないことはご承知ですよね?

特に、ピカソほどデッサンの訓練を重ねた画家はいないそうですし、
きちんとした絵を描けるからこそ、
崩しの技も体得しているのです。

それと同様、若い頃のモンクは、
「圧倒的なテクニックの持ち主だった」
と同業者にいわしめるほど、
“まっとうな”ピアノを弾いていたそうですし、
マイルスやコルトレーンにも音楽理論を教えていたほど、
音楽には長けた人なのです。

きちんとした型の茶碗を作れる陶芸家が、
わざとイビツな、しかし味のある陶芸を作るのと同様、
モンクも「分かった上で、崩しの妙味」
をも体言しているピアニストなのです。

つまり、それまで多くの人が弾いていた
“ジャズの語法”を消化した上で、
それを土台に自分なりのスタイルを築き上げているのです。

だからこそ、モンクのピアノは、
モンクにとっては未知の領域への挑戦でもあり、
我々リスナーにとっては聴覚の冒険でもあるのです。

デタラメや思いつきというのは、
往々にして最初は面白くても、
繰り返し観賞しているうちに、
すぐに底の浅さが露呈してしまうものです。

しかし、モンクの音楽は何度もの鑑賞に耐えうる表現の強度がある。
つまり、無邪気なようでいて、
じつに考え抜かれた表現をしているのです。

我々が「おや?」と感じる聴覚の引っかかりは、
モンクが音楽の中に周到に仕掛けた時限爆弾なのかもしれません。

だから、気になる。
だから、再び聴く。

聴いているうちに、
この「引っかかり」が快感に変わってゆくのと同時に、
モンクが音楽的にやろうとした“狙い”のようなものも見えてくる。

モンクの世界は一度はまると、
中々抜け出せない魅力を有しているのです。

――――――――――――――――――――――――――――

『セロニアス・ヒムセルフ+1』
セロニアス・モンク

1.パリの四月
2.ゴースト・オブ・ア・チャンス
3.ファンクショナル
4.センチになって
5.アイ・シュッド・ケア
6.ラウンド・ミッドナイト
7.オール・アローン
8.モンクス・ムード
9.ラウンド・ミッドナイト(イン・プログレス)


これぞ、モンクの音楽の最高傑作。寡黙で思索的なピアノソロです。
この孤高で深い世界、すぐに分かってくれとはいいません。
時間をかけてゆっくりとつきあってください。

←前回記事へ

2005年11月7日(月)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ