やがて本気で好きになります

第53回
気配りのレーベル、ブルーノート

なぜ、数あるレーベルの中で、
ブルーノートがジャズの名門レーベルとして
リスナーから圧倒的な支持を受けているのでしょうか?

それは、先日紹介した
ユニークなブレインたちの存在も大きいですが、
肝心なジャズマンも、素晴らしいプレイをしたからに他なりません。

素晴らしいプレイをするだけの環境が整っていたということは
次回述べたいと思いますが、
それ以前にレーベルのオーナー、アルフレッド・ライオンが
ジャズメンから全幅の信頼をおかれていたのです。

ホレス・シルヴァー(p)は述懐しています。
「せちがらい業界にあって、アルフレッドは心から信頼ができた。
あんなプロデューサーがジャズの世界にいたなんて奇跡だ」

彼を称えるジャズマンは、ホレス・シルヴァーだけではありません。

多くのジャズマンが、
このようなニュアンスでライオンのことを信頼し、
尊敬していました。

信頼している人物のレーベルに、
精一杯の演奏をしようと
ジャズマンが意気込むのは無理もありませんが、
それでは、なぜ、
多くのミュージシャンがライオンのことを信頼したのでしょう?

その一端を示すエピソードがいくつかあります。

まず、彼は心底ジャズが大好きだったので、
いつもレコーディング現場にいたこと。

「彼のように、
ジャズの現場に通い続けたプロデューサーは黒人にだっていない。
だから、みんなアルフレッドのことは信頼していた」
(ソニー・ロリンズ)

ライオンにとっては、好きなジャズを間近で聴けるという喜びから、
常に現場にいただけなのかもしれません。
しかし、当時のアメリカでは、黒人の音楽として低い扱いを受け、
演奏だけではなく、タクシーの運転手などもしながら
生活の糧を得ていたジャズマンにとっては、
白人の経営者が常に録音現場に顔を出していたことだけでも
非常に珍しく映ったのでしょう。

さらに、彼はスタジオにいつも飲食を用意するようにしていたので、
これもジャズマンを喜ばせました。

ライオンが最初にレコーディングをしたときは、
レコーディングに関してはまったくの素人。
だから、初の録音現場では何をして良いのかわからず、
とりあえず、
ジャズマンがお腹をすかさないようにサンドイッチを用意しました。

これが大いにジャズマンたちを喜ばせ、
リラックスした雰囲気でレコーディングに臨めたのです。

以来、ブルーノートのレコーディングは、
お酒や食事が用意されるようになり、
ジャズマンはまるでパーティで演奏するかのように、
嬉しくリラックスした気分で演奏することが出来たのです。

そして、このようなお膳立てをしてくれるプロデューサーに
感謝の念も持ったのです。

このような気配りが重なり、
少しずつジャズマンからの信頼を得たブルーノートは、
他のレーベルには見られない
クオリティの高い演奏を捉えることが出来たのです。

※文中のホレス・シルヴァーとソニー・ロリンズの言葉は、
『ブルーノートの真実』(小川隆夫著)からの引用です。

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『ブルーノート再入門
モダン・ジャズの軌跡』
行方 均

 


様々な角度からブルーノートのエトセトラを俯瞰できる1冊。

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2005年12月21日(水)

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