やがて本気で好きになります

第54回
リハーサルにもギャラを払ったブルーノート

ジャズは「えい、やぁ!」が許される音楽です。
即興の要素の強い音楽ゆえ、
互いが曲さえ知っていれば、
いや、曲すら知らなくてもコード進行さえ分かれば、
その場の勢いで「せぇの!」で演奏することが出来る
便利な音楽です。

良く言えば、勢いのある演奏になりますが、
悪く言えば、やっつけ仕事的な演奏内容になり兼ねません。

よくアフターアワーズなどで
ジャズマン同士が簡単な打ち合わせを口頭でしただけで、
「せぇの!」で演奏をすることがあります。

これをジャムセッションといいますが、
これの良いところは、
簡単な打ち合わせと約束事さえ決めれば、
いや、ときには、そんなことすら決めなくても、
演奏中の目配せだけで演奏をすることが可能です。

その場に居合わせた人からしてみれば、
思いもよらぬミュージシャン同士の共演を見物できて
楽しいひとときを過ごすことが出来るでしょう。

しかし、これって、
その現場に居合わせた人だけの楽しみに終わってしまう可能性が
高いですよね。

つまり、リアルタイムで接する演奏は、
迫力や熱気に押されて、
ちょっとしたミスには気付かずに済みますが、
ひとたびレコード(CD)の音源として発売されたらどうでしょう?

演奏の勢いや熱気を感じることは出来るかもしれませんが、
“耳だけ”で鑑賞する人にとっては、
ミスが目立ったり、構成が散漫だったりと、
アラの目立つ演奏に感じてしまうかもしれません。

しかし、これまでのジャズのレコーディングは、
比較的それに近い状態でなされていました。

スタジオに入ったミュージシャンが、簡単な打ち合わせをしたら、
あとは、「せーの!」で演奏を始めて、
「えいやっ!」と、悪く言えばやっつけ仕事で片付けてしまう。

同じ曲を何度かパターンを変えてテープに録音し、
その中で一番よかったものをレコードにして発売。

複雑なアレンジどころか、曲によっては譜面すら必要としない、
即興の要素の強いジャズのこと、
ミュージシャンの力量さえあれば、
その方法でも十分演奏できてしまったのです。

もちろん、
すべての録音がそのようになされていたわけではありませんが、
多くのレコーディングはそれほど時間をかけずに、
次から次へと録音されていたのが、
ブルーノートが登場する以前のジャズの録音方法でした。

しかし、ブルーノートは、
スタジオで「せーの!」でやっていた録音の方法をやめ、
レコーディングする前日に、リハーサルをさせる日を設けました。

しかも、リハーサルにもギャラを払ったので、
ジャズマンも大いに喜びました。

しかも、前回書いたとおり、現場には、食事も用意されている。
このような気配りをきかせてくれるライオンに対しては、
ジャズマンは、
「よっしゃ、頑張ろう!」と意気込み、
良い演奏をするわけです。

ミュージシャンも喜びますが、
ライオン自身も、
自分の納得できるジャズのレコードを発売することが出来るので、
一石二鳥です。

リハーサルによって練られた
クオリティの高い演奏が記録されたことにより、
何度聴いても飽きない内容の音源が出来上がります。

ブルーノートの音が、歴史の風雪に耐え、
いまだ聴き継がれている秘密は、こんなところにもあるのです。

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2005年12月23日(金)

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