やがて本気で好きになります

第62回
様々なジャズのブルースを一挙紹介

12小節、3つのコードというシンプルな枠組みのブルースも、
ジャズの進化に呼応するように、様々な形態に進化してゆきます。

以前紹介した、チャーリー・パーカー作曲のブルースも、
これまでの素朴なブルースに比べれば、
かなり遠いところに来てしまった感がありますが、
それ以降もジャズの進化とともに、
「ええ?これもブルース?」というほどに、
ブルースもどんどん進化してゆきます。

モダンジャズのブルースに慣れ親しむための格好の教材があります。
ジョン・コルトレーン(ts)が1960年に録音した
『コルトレーン・プレイズ・ザ・ブルース』と、
ジャッキー・マクリーン(as)が61年に録音した
『ブルースニック』です。

いずれも、まるごと一枚、
全曲ブルースばかりが収録されたアルバムです。
彼らジャズマンが、ジャズの歴史とともに歩み、
演奏されつづけてきたブルースを、様々な角度から見直し、
なおかつ新たな解釈と、
参加ミュージシャンの瑞々しい感性で
ブルースを表現したアルバムです。

これを聴けば、モダン・ジャズにおけるブルースの“語法”や
“ニュアンス”、“雰囲気”が掴めると同時に、
後ほど紹介する
進化した新しいタイプのブルースへの橋渡しにもなることでしょう。

また、ジャズに親しみ、
もっとジャズの“謎”や“快楽”を
探求したいという欲求が芽生えてきた方には、
オリバー・ネルソンの『ブルースの真実』にも
是非耳を通してください。
新たなブルースの可能性を試行錯誤しつつも、
単なる実験作にとどまらず、
聴き応えのある内容に仕上がっています。

50年代後期から60年代前半にかけて、
ブルースは、どんどんと進化、変形を繰り返してゆきます。

たとえば、チック・コリアの代表作に
『ナウ・ヒー・シングズ・ナウ・ヒー・ソブズ』
というアルバムがありますが、
1曲目の《マトリックス》という曲もブルースです。

近代的な響きで、勢いよく疾走するチックのピアノの中には
ブルージーといった形容はまったく当てはまりません。

ほか、ジョー・ヘンダーソンの《アイソトープ》、
マイルス・デイヴィスとビル・エヴァンスの共作の
《ソーラー》や《ブルー・イン・グリーン》など、
素朴さ、泥臭さよりも
洗練された美しさを誇るブルースも出現します。

マイルスの『カインド・オブ・ブルー』の後半に収録されている
《オール・ブルース》は、その名のとおりのブルースですが、
これは3拍子のブルース。
アート・ペッパーの《ワルツ・ミー・ブルース》も、
3拍子のブルースですね。
メロディ、コードのみならず、
リズム(拍子)も変えて演奏されているのです。

リズムといえば、
変拍子で有名なデイブ・ブルーベックの『タイム・アウト』の
《トルコ風ブルー・ロンド》の途中に挿入されるのも
ブルース進行のアドリブです。

駆け足で紹介してきましたが、
このように、ブルースという“形式”、“コード進行”は、
ジャズマンが自己表現するには、
今も昔もきわめて重要なアイテムとなっています。

もし、あなたが
興味を持ったミュージシャンの力量や表現力を知りたければ、
スタンダードをどう解釈しているかも一つのバロメーターですが、
是非、
どのようなブルースを弾いているのかに耳を傾けてみましょう。

ブルースの演奏ひとつで、ミュージシャンの力量のみならず、
ジャズの歴史の中での立ち位置、
アイデンティティまでもが分かってしまうのです。

――――――――――――――――――――――――――――

『コルトレーン・プレイズ・ブルース』
ジョン・コルトレーン

1.ブルース・トゥ・エルヴィン
2.ブルース・トゥ・ベシェ
3.ブルース・トゥ・ユー
4.ミスター・デイ
5.ミスター・シムス
6.ミスター・ナイト
7.アンタイトルド・オリジナル


全曲ブルース。ジョン・コルトレーンが様々な角度からブルースを見直した作品。



『ブルースニク』
ジャッキー・マクリーン

1.ブルースニク
2.ゴーイン・ウェイ・ブルース
3.ドリューズ・ブルース
4.クール・グリーン
5.ブルース・ファンクション
6.トーチン


ジャッキー・マクリーンや、フレディ・ハバード(tp)らによる、勢い溢れるブルース演奏。




『ブルースの真実』
オリヴァー・ネルソン
1.ストールン・モーメンツ
2.ホー・ダウン
3.カスケイズ
4.ヤーニン
5.ブッチ・アンド・ブッチ
6.ティーニーズ・ブルース

作編曲者としても力量を発揮するオリバー・ネルソンが、様々な形態のブルースを表現しています。
少ない人数にもかかわらず、ビッグバンドなみの重厚なサウンドアレンジにも注目。




『Now He Sings,
Now He Sobs』
Chick Corea
1.Steps - What Was
2.Matrix
3.Now He Sings, Now He Sobs
4.Now He Beats the Drums, Now He Stops
5.Law of Falling and Catching Up
6.Samba Yantra [*]
7.Bossa [*]
8.I Don't Know [*]
9.Fragments [*]
10.Windows [*]
11.Gemini [*]
12.Pannonica [*]
13.My One and Only Love [*]

「これもブルース?!」「ブルースもここまで来たのか!」と驚くこと必至の、
およそブルースらしくない《マトリックス》。




『インナー・アージ』
ジョー・ヘンダーソン
1.インナー・アージ
2.アイソトープ
3.エル・バリオ
4.ユー・ノウ・アイ・ケア
5.ナイト・アンド・デイ

チック・コリアのブルースと同様、《アイソトープ》もブルースらしからぬ趣きです。

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2006年1月11日(水)

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