やがて本気で好きになります

第66回
幻のピアニストは、旅先の必携アイテム

ドド・マーマロサというピアニストが好きです。

チャーリー・パーカーと共演した経歴はあるのですが、
それ以外には特に際立った活躍はなく、
くわえて、重度の麻薬中毒ゆえ、
シーンを遠ざかっている期間のほうが多いんじゃないかと思います。

私が愛聴しているアルバムは、
久々にカムバックして吹き込んだアルバムです。
その名のとおり
『ドドズ・バック!』。

帰ってきたのはいいんだけれども、
録音したらまた姿をくらまして、今でも生死不明。
生きていたら、もう80歳は超えていることでしょう。
まさに幻のピアニストですね。

私は、姿をくらます前に録音した、
この『ドドズ・バック!』を愛聴しています。

決して派手なピアノではないのですが、
ブロックコードの使い方が独特なことと、
クラシックの素養があるためか、
リズムから微妙に外れた、“自分リズム”でピアノを弾いてしまう
独特の“揺れ”があるところが特徴です。

音のタッチも乾いていて、骨太。
ピアノの音そのものは、
ハードボイルドで、男っぽいゴツゴツとしたタッチです。

それなのに、
音の端々にそこはかとないメランコリックさが漂っている。
そこがたまらないのです。

明快なタッチ。
聴き手に媚びるような、
分かりやすい砂糖菓子のようなフレーズは弾きません。

なのに、そこはかとなく、
音と音の間には微妙に哀しい空気感が漂い、
そこがなんとも言えずに良いのです。

食事で言えば、白米。
タバコで言えば、マイルドセブン、かな?

とりたてて大きな特徴はないけれども、
毎日、味わいたくなるような良さがあるのです。

だから、昔はウォークマン、
今はiPodにこの曲を入れて、いろいろなところで聴いています。

電車の中で聴けば、見慣れた景色が妙に新鮮に映るし、
疲れたときに聴くと、もうちょっと頑張ってみようと思う。

出てくる音は同じなのに、聴くたびに違った音に聴こえます。
ドドのピアノは、
自分の今の気持ちを映し出す鏡のようなものなのかもしれません。

とくに、1曲目の《メロウ・ムード》と、
2曲目の《コテッジ・フォー・セール》は絶品。
旅行にも、この2曲は欠かせなくなりました。

誰もいないニースの海岸でこれを聴いて涙し、
ブリュッセルの早朝の町並みもこれを聴きながら散歩しました。
旅先では、まったく違った音に聴こえるから不思議です。

不思議なことに、日本の湿った気候にも、
南仏やカリフォルニアの乾いた空気の中にも、
ドドのピアノは不思議とマッチするのです。

旅先に必ず持ってゆくジャズは
『ドドズ・バック!』ぐらいなものです。
それほど、私はドド・マーマロサの『ドドズ・バック!』を
偏愛しているのです。

そういえば、ミネソタ大学アジア言語文学部準教授の、
マイク・モラスキー氏もドドが好きだということを
彼の公演で知り、ちょっと嬉しくなりました。

氏もドドのブロックコードに惚れた一人だそうで、
イギリスのジャズ学会でこのことを話したそうですが、
多くの人はドドのことを知らなかったそうです。

世界的にも、マイナーなピアニストなのかもしれませんね。
しかし、
初心者も充分に彼のメランコリックさは味わえると思いますので、
有名・無名は、あまり音楽の内容には関係ありません。

ドドのアルバムは、現在、あまり店頭には置かれてないようなので、
見つけたときには即買いをおススメします。

――――――――――――――――――――――――――――

『ドドズ・バック!』
ドド・マーマローサ

1.メロー・ムード
2.コテージ・フォー・セール
3.エイプリル・プレイド・ザ・フィドル
4.エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー
5.オン・グリーン・ドルフィン・ストリート
6.ホワイ・ドゥ・アイ・ラヴ・ユー?
7.アイ・ソート・アバウト・ユー
8.ミー・アンド・マイ・シャドウ
9.トレイシーズ・ブルース
10.ユー・コール・イット・マッドネス


個人的“偏愛”盤。私にとっては、日常にも、旅行にも必携アイテムのひとつです。

←前回記事へ

2006年1月20日(金)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ