やがて本気で好きになります

第69回
『処女航海』は、絵を鑑賞する気分で聴いて欲しい

ハービー・ハンコック(p)の代表作の1枚に
『処女航海』というアルバムがあります。

このアルバムを聴くときは、
「ジャズを聴くぞっ!」と気構える必要はありません。
むしろ、「絵を鑑賞する」、
「映像の無い映画を見る」ような気持ちで聴いたほうが
シックリくるんじゃないかと思います。

音で情景を描写しているかのようなサウンドだからです。

大海原へ静かに航海に出でるときの情景。
穏やかにウネる海面
処女航海の期待感と、むせかえるほどの濃密な潮の香り。

沖では台風に遭遇します。
大海原の中に漂う、チッポケな自分を自覚したりもします。

穏やかな海面から飛び跳ねるイルカの姿に心和むこともあります。

アルバム1枚がトータルな音による情景描写になっているのですね。

従来のジャズは、誰それのアドリブがどうのといった
個人のプレイに重点を置いた聴かれ方をしていました。

もちろん、
『処女航海』に参加しているミュージシャンたちの顔ぶれは、
トランペットのフレディ・ハバードを除けば、
全員が当時のマイルス・デイヴィスのグループのメンバー。
演奏の力量は並々ならぬものがあります。

しかし、彼らの演奏内容がどうというよりは、彼らのプレイは
音の情景描写に専念しているかのよう。

リーダーのハンコックが、情景、ストーリーのデッサンを提示し、
それを汲み取ったサイトメンたちは、
思い思いに音で情景を綴ってゆくのです。
あたかも音の絵の具で、空間を塗り染めるかのように。

だから、このアルバムを聴くときは、難しいことを考えずに、
目を閉じて、大海原に漕ぎ出すような感じで聞いていただければ、
と思います。

この曲は、後にはハンコックの代表的なレパートリーとなり、
何度もライブで演奏されることになりますが、
私はこのアルバムの初演バージョンがいちばん好きですね。

深夜、地下、紫煙にまみれた薄暗いジャズクラブ。
このようなイメージのこびりついたジャズを、
いきなり屋外に、しかも大海原に連れ出してしまった
ハービー・ハンコックの『処女航海』の登場は、
ジャズの歴史に新たな1ページを刻む出来事だったのです。

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『処女航海』
ハービー・ハンコック

1.処女航海
2.ジ・アイ・オブ・ザ・ハリケーン
3.リトル・ワン
4.サヴァイヴァル・オブ・ザ・フィッテスト
5.ドルフィン・ダンス


“聴く”ジャズというよりも、“感じる”ジャズ。

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2006年1月27日(金)

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