やがて本気で好きになります

第70回
「カモメのチック」の登場で、
ジャズ喫茶の空気が変わった

ハービー・ハンコック(p)の『処女航海』と同様、
チック・コリア(p,elp)の『リターン・トゥ・フォーエヴァー』も、
ジャズが持つアンダーグラウンドなイメージを覆したアルバムです。

「狭い地下室で紫煙を燻らせながら聴く」
というイメージのジャズを、一気に、
さんさんと光の降り注ぐ屋外へと連れ出してしまった。
この点はさんさんと、ハンコックの『処女航海』と同様、
このアルバムもジャズ史の画期的な出来事として記憶されています。

ジャケットのイメージから、
このアルバムは「カモメのチック」とも呼ばれています。

録音は1972年。
当時の私は、まだ子供だったので、
ジャズ喫茶への出入りはしていませんでしたが、
当時のお客さんや、ジャズ喫茶のマスターは、
皆、これがかかったとたん「確実に空気が変わった」と
口をそろえて言います。

南国のユートピアを連想させる楽園的なサウンドと、
清涼感に溢れるサウンド。
たしかに、当時のジャズ喫茶でよく流れていたと
コルトレーンやアイラーの、
ある種暑苦しいサウンドとは一線を画しています。

美しいメロディ、
清涼感溢れるエレピ(エレクトリック・ピアノ)の音色。

しかし、ただ単に美しいだけではなく、
ヴォーカルのフローラ・プリムの絶叫に、
スタンリー・クラークの長いベースソロなど、
要所に“怪しい要素”も隠し味的にスパイスされている。

一口に南国の楽園といっても、
景観の美しさとは裏腹に、森の中には蛇やら毒虫が潜み、
スコールや台風など猛威をふるう振るう
自然と隣り合わせな環境ですからね。

美しさと同時に、美しさの裏に潜む混沌さ、
不気味さもきちんと音楽の中に内包されている。

だからこそ、何度聴いても飽きない。
したがって、ジャズという狭い括りではなしに
「名盤」と位置づけられているのです。
また、今日始めて聴く人にとっても、
音楽的な充実感に満たされた一枚となっているのでしょう。

この露骨ではなく、チラリと見え隠れする混沌と殺気が、
スパイスのようにアルバムの中に点在するからこそ、
ラストの《ラ・フィエスタ》が徹底的に快楽的に聴こえるのです。

「爽やか!」という売り文句だけを鵜呑みにせず、
そのハザマに見え隠れする毒気も見逃さずに等しく味わってこそ、
“ツウ”というものです。

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『リターン・トゥ・フォーエヴァー』
チック・コリア

1.リターン・トゥ・フォーエヴァー
2.クリスタル・サイレンス
3.ホワット・ゲーム・
 シャル・ウィ・プレイ・トゥデイ
4.サムタイム・アゴー~ラ・フィエスタ


当時のジャズ喫茶では、1日に最低一回はかかっていたというほどの人気盤。
もちろん今聴いても、サウンドの心地よさに変わりはありません。

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2006年1月30日(月)

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