やがて本気で好きになります

第71回
怒れるベーシスト、チャールズ・ミンガスの魅力

ジャズの巨人の中で、真っ先に名の挙がるベーシストといえば、
チャールズ・ミンガスでしょう。

“怒れるベーシスト”と評される彼。

自分の思い通りに吹かないトロンボーン奏者を殴って歯を折ったり、
お喋りをやめないジャズクラブの客をステージから怒鳴りつけたり、
演奏が気に入らないと、最初からやり直しをメンバーに強要したり
と、 “武勇伝”には事欠かないベーシストです。

彼の言動が、そのまま音になったかのようなベースの音色は、
太くて力強く、まるで岩のようにゴツゴツとした迫力です。

ベース奏者としても
ユニークな個性と優れた技量を持つミンガスですが、
それ以上に彼の素晴らしいところは、たぐいまれなる作編曲能力と、
バンドリーダーとして
アクの強いプレイヤーたちを統率する、
強力なリーダーシップにあります。

少人数にも関わらず、ビッグバンドに迫るほどの
分厚いサウンドの迫力は唯一無二のものです。

彼の生み出すアンサンブルは、
いつも独特の“濁り”と“厚み”があり、
彼にしか出来ない独自の世界を築き上げていました。

彼が敬愛する音楽家はデューク・エリントン。
エリントンがビッグバンドで描き出す、
分厚く濁りのあるサウンドを、
彼は少人数のスモールコンボで表現しようとしたのです。

そして、彼の諸作を聴けば分かるとおり、
その目論見は見事成功しているといってもよいでしょう。

代表作の『道化師』や『ミンガス・アー・アム』を聴けば、
濃いアンサンブルの迫力に驚かれることかと思います。

しかし、忘れてならないのは、
怒れるベーシストの彼の音楽の根底には、
必ずユーモアや優しさが流れていることです。

たとえば、『ミンガス・プレゼンツ・ミンガス』に収録されている
《フォーバス知事の寓話》。
これは、リトルロック事件の原因ともなった
フォーバス知事を揶揄した曲ですが、
単に罵るだけではなく、根底には、
「バカな白人を相手にしても仕方がないよなぁ」
と、事件そのものを笑い飛ばそうとする心意気が感じられます。

さらに、ベースを弾かずにピアノを弾くことに専念した
『ミンガス・プレイズ・ピアノ』や、
『オー・ヤー!』といったアルバムには、
ゴッツいけれども優しいオジさんの一面が現れています。

激しいサウンドと、
激しやすい人物像だけでミンガスの音楽を捉えるだけでは、
ミンガスというジャズマンの半分しか理解したことになりません。

彼の奥底に流れる、限りなく優しいユーモア精神に目覚めてこそ、
はじめてミンガスの音楽は我々に微笑みかけてくれるのです。

豚骨ラーメンのように
好き嫌いがはっきりと分かれるジャズマンではありますが、
そのアクの強さに病み付きになる人も多いこともまた事実。

興味のある方は、是非、トライしてみてください。

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『道化師』
チャールス・ミンガス

1.ハイチ人の戦闘の歌
2.ブルー・シー
3.ラヴバードの蘇生
4.道化師


《ハイチ人の戦闘の歌》の迫力あるベースと、サウンドが圧巻。まさにミンガス・ミュージック!



『Mingus Ah Um』
Charles Mingus

1.Better Get Hit in Yo' Soul
2.Goodbye Pork Pie Hat
3.Boogie Stop Shuffle
4.Self-Portrait in Three Colors
5.Open Letter to Duke
6.Bird Calls
7.Fables of Faubus
8.Pussy Cat Dues
9.Jelly Roll
10.Pedal Point Blues
11.GG Train
12.Girl of My Dreams


ミンガス入門には最適!
生涯最良のパートナー、ダニー・リッチモンド(ds)とのリズムコンビネーションもバッチリ。
歯を折られたトロンボーン奏者、ジミー・ネッパーも奮戦しています。



『ミンガス・プレゼンツ・ミンガス』
チャールズ・ミンガス

1.フォーク・フォームス No.1
2.フォーバス知事の寓話
3.ホワット・ラブ
4.汝の母もしフロイトの妻なりせば


1957年、アーカンソー州リトルロックの
白人専用ハイスクールに9人の黒人生徒の入学が許可された。
しかし、フォーバス知事は、選挙での白人票欲しさに、過激な人種差別主義者に豹変し、
通学しようとする黒人生徒を追い返すため警察を動員。
その際、白人黒人の共学に反対する白人たちの暴動が発生。
連邦軍が出動し、鎮圧されるたのがリトルロック事件。この事件を題材に、
ミンガスは、《フォーバス知事の寓話》で、フォーバス知事のことを皮肉り、嘲笑している。



『Mingus Plays Piano』
Charles Mingus

1.Myself When I Am Real
2.I Can't Get Started
3.Body And Soul
4.Roland Kirk's Message
5.Memories Of You
6.She's Just Miss Popular Hybrid
7.Orange Was The Color Of Her Dress,
 Then Silk Blues
8.Meditations For Moses
9.Old Portrait
10.I'm Getting Sentimental Over You
11.Compositional Theme Story:
 Medleys, Anthems And Folklore


ベースを弾かず、ピアノだけに専念した作品。
私はこれを聴くたびにオールド・クロウというバーボンを思い出します。
棒を切ったように無骨だが、妙な味わいが後から襲ってくるのです。



『オー・ヤー』
チャールズ・ミンガス

1.ホッグ・コーリン・ブルース
2.デヴィル・ウーマン
3.ワム・バム・サンキュー・マム
4.イクルージアスティックス
5.神よ原始爆弾を降らせ給うな
6.イート・ザット・チキン
7.パッションズ・オブ・ア・マン
8.“オールド”・ブルース・
 フォー・ウォルツ・トーリン
9.ペギーズ・ブルー・スカイライト
10.インヴィジブル・レイディ


ベースは、他のベーシストにまかせ、ミンガス自身はピアノと歌に徹したアルバム。
しかし、それでも漂う濃厚なトンコツラーメンのようなコクはミンガスサウンドそのもの。
豚の鳴き声を真似た《ホッグ・コーリン・ブルース》など、彼流のユーモアが満載です。

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2006年2月1日(水)

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