やがて本気で好きになります

第72回
『マネー・ジャングル』。殺気だったピアノの迫力!

最初にこのピアノを聴いたときは、度肝を抜かれました。
こんな殺気だったピアノ聴いたことがない!

ピアノの主はデューク・エリントン。
アルバムは『マネー・ジャングル』。
ピアノのほか、
ベースとドラムが参加しているピアノトリオで演奏されています。

ベーシストは前回紹介した
“怒れるベーシスト”チャールズ・ミンガス。
ドラマーはマックス・ローチ。
絶頂期のバド・パウエルの狂気じみたピアノのスピードに
唯一ついてゆけたという巧者です。

この3人が、まるでなにかに憑かれたように、
一丸となってなにやら不穏な音塊を中空に叩きつけているのが、
『マネー・ジャングル』なのです。

風雲急を告げる、ただごとではない雰囲気。
軽い気持ちで聴こうものなら、
その瞬間から手痛い攻撃を喰らいそうな、
気迫のこもったサウンド…。

ローチのドラムは、まるでドラムで何者かを攻撃しているかのよう。
ミンガスはベースの高めの音域を多用して弦をかきむしっています。

そして、エリントンの殺気だったピアノ。
弾く、というよりは、
叩きつけるといった表現のほうがふさわしい奏法です。

バシン!と空気を震わせる、この音色、 この音圧。
ピアノが悲鳴をあげているようです。

この恐るべきピアノを弾く男、デューク・エリントンは、
ジャズ界最大の巨人として、
多くのジャズの巨人から崇められている存在なのです。

共演しているベーシストのチャールズ・ミンガスや、
ピアニストのセロニアス・モンクらは、
エリントンの影響をモロに受けているジャズマンですし、
かのマイルス・デイヴィスや
ジョン・コルトレーンといったジャズ・ジャイアンツでさえも、
エリントンの前では、ヒヨコ同然の存在感かもしれません。
ロックフェラー財団の奨学金を得た
若かりし日の武満徹は、
「デューク・エリントンに師事したい」
と申し出たら、冗談だろうと、鼻で笑われたそうです。

それほど、大きな存在として、ジャズ、
いや20世紀の音楽の世界に屹立している唯一無二の存在なのです。

あの気性の荒いチャールズ・ミンガスでさえ、
エリントンとこのアルバムの録音をするときは、
足がすくんだと述懐しているほど、
音楽も、存在感も並外れたスケールを誇る男が、
デューク・エリントンなのです。

次回も引き続き、彼について解説したいと思います。

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『マネー・ジャングル』
デューク・エリントン

1.マネー・ジャングル
2.アフリカの花
3.ヴェリー・スペシャル
4.ウォーム・ヴァレー
5.ウィグ・ワイズ
6.キャラヴァン
7.ソリチュード


とにかくヤバいピアノをたっぷりご賞味あれ。

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2006年2月3日(金)

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