やがて本気で好きになります

第76回
ヒノテルは、今でもストイックなジャズ・ヒーローなのだ

先日、邱永漢さん主催の晩餐会
「Q氏に一笑の会」に参加させていただきました。

私は、このサイトで「男はカッコ」を連載されていた出石氏と同席。
氏とジャズの話をしているうちに、
話題がヒノテルこと、日野皓正に。

羨ましいことに、
氏は日野皓正と食事をされたことがあるのだそうです。

そのときのヒノテルは、タバコもお酒もやめていたのだそうです。
理由は、「死ぬまでトランペットを吹きたいから」。
カッコイイなぁと思いました。

日野皓正は、60年代後半、その容姿とズバ抜けた音楽性で、
“ヒノテルブーム”を巻き起こした、
日本が世界に誇るジャズのヒーロー。
音楽誌のみならず、若者のファッション誌にも取り上げられ、
当時の若者の憧れの的でした。

とはいえ、私は、ヒノテル人気の絶頂期には、
まだ赤ん坊だったので、
彼の音楽をリアルタイムでは聴いていません。
“ヒノテルブーム”に関しては、活字の知識で知っている程度です。

しかし、当時の音源を聴くと、
エネルギーのカタマリといわんばかりの、
熱いスピリットに満ちたトランペットを感じられるので、
当時の人気も「なるほど」と納得できます。

私の知り合いで、地方のジャズフェスティバルの
スタッフのアルバイトをした人がいるのですが、
彼女らスタッフが出演するヒノテルをバス亭まで迎えにいった際、
バスから降りてきたヒノテルは、
「お迎えご苦労さまです」
とスタッフたちに深々とお辞儀をしたそうです。

アルバイトに過ぎない自分達に、世界のヒノテルがお辞儀をした。
それだけで、スタッフは皆、
ヒノテルのファンになってしまったそうです。

出石氏も、
「あんなに素晴らしい人は他にいない」と絶賛していましたが、
このエピソードを聴くだけでも、
彼の人柄が分かるような気がします。

周囲への気配りを忘れず、
なおかつ「死ぬまで吹き続ける!」
と熱きジャズスピリッツを滾らせたジャズマン。
不健康・退廃的なイメージの強いジャズマンとは異なる、
ストイックなカッコ良さが感じられます。

そして、彼の創作意欲は、
今なお、衰えることはありません。
最近も精力的にアルバムを発表しています。
実際、昨年発表された『透光の樹』は、
久々に「おお、すごい!」と唸ってしまった新譜の一枚でした。

このアルバムは、昨年公開された同名映画のサウンドトラックです。
私は最初、ヒノテルが音楽を担当しているという
予備知識なしに映画を観ていたのですが、
すぐにバックで流れる音の虜になってしまいました。

重く捩じれたラッパが映画の画面を格調高く彩っていたのです。
驚いてクレジットを確認したら、音楽は日野皓正でした。

ピアノとトランペットのみのデュオで、
深遠な世界を描き出しており、
この映画の儚いムードを底上げしていたことは間違いありません。

もちろん、映像抜きで、
この音楽だけを鑑賞しても、深い世界を味わえますが、
落ち込んだときに酒などを飲みながら1人で聴くと、
自殺したくなるほど、落ち込んだ気分になるかもしれないので、
要注意です。

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『透光の樹』
サントラ

1.プロローグ~炎~
2.ヴァイオレット・メランコリー(ロング・ヴァージョン)
3.エンバー~六郎杉~
4.ブルー・フレイム~かたくりの花~(piano solo)
5.ヴァイオレット・メランコリー~愛のテーマ~
6.スルー・ライト~再会~
7.ヴァイオレット・メランコリー~愛のテーマ~(piano solo)
8.エンバー~別れ~
9.ブルー・フレイム~電話~
10.ヴァイオレット・メランコリー
11.モノクローム
12.スルー・ライト~GとC~
13.ヴァイオレット・メランコリー/エンバー~エピローグ~
14.インヴォケイション
15.ブルー・フレイム(ロング・ヴァージョン)
16.モノクローム(ロング・ヴァージョン)
17.エンバー(ロング・ヴァージョン)


熱く勢いに溢れるトランペットよりも、
地の底まで沈んでゆきそうなヒノテルの重いラッパが私は好きです。



『Visitation』
Sam Jones

1.Occurance
2.Visitation
3.Jean Marie
4.Before You
5.My Funny Valentine
6.Del Sasser
7.Before You [Take 1]
8.My Funny Valentine [Take 2]
9.Visitation [Take 1]


ベーシスト、サム・ジョーンズのリーダーアルバムに参加した若きヒノテル。
彼の凄さは、このようなところでも味わえます。《マイ・ファニー・バレンタイン》が聴きどころ。

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2006年2月13日(月)

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