やがて本気で好きになります

第80回
エリック・ドルフィー

好きなジャズマンは誰ですか?とよく訪ねられます。
そのたびに、「え〜と…」と迷うのも面倒なので、
「管楽器だったらエリック・ドルフィーが好き」
と答えることにします。

もちろん、ドルフィー以外にも好きなジャズマンは大勢いますが、
やはり彼は別格です。
なにしろ、彼が参加した音源はほとんど集めたぐらいですから。

エリック・ドルフィーは、
アルトサックスのほか、フルート、バスクラリネットと
3つの管楽器を操るマルチ・リード奏者(※)です。

彼のプレイは、他のどのジャズマンにも似ていません。
少し聴いただけで、すぐに彼だと分かるほどの個性の持ち主です。

ドルフィーの特徴を一言で言ってしまえば「宇宙」です。

うーん、ちょっと違うかなぁ。
この言葉を持ち出すと、なんだか宗教がかっているというか、
胡散臭いイメージを連想する方も出てくるからなぁ。

そういった、意味での「宇宙」ではなく、
無重力、未知、四次元…、
そういったイメージが彼のプレイには如実に現れているのです。

重力の呪縛から開放されたかのような奔放なプレイ。
たとえば、彼はテナーサックスの巨人、
ジョン・コルトレーンのグループに参加していましたが、
コルトレーンのサックスと比べるとそれは如実に分かります。

コルトレーンだって革新的なサックス奏者です。
しかし、ドルフィーに比べれば、まだ地に足がついている。
懸命に地球の重力から逃れ、無重力圏に達しようと、
ものすごいエネルギーを投入しているかのようなプレイをします。

まるで、ロケットが大気圏外に脱する推力を得るために、
膨大な燃料を爆発させているかのように。

しかし、コルトレーンのアドリブの後に登場する
ドルフィーのプレイは、
最初から無重力状態の中を縦横無尽にかけめぐっているかのよう。
まるで未来から突然舞い降りた未知の音楽。

飛行機の宙返り、レースでのヘアピンカーブ。
急激に無理な運動をすると、
重力の影響で、莫大な負荷がかかります。
しかし、ドルフィーのプレイは
そのようなものがまったく感じられないのです。

身体的、物理的な制約を受けずに、
軽々とものすごいフレーズを吹く彼は、
空間の上下左右、
さらには時間すらを軽々と自由に行き来しているかの如くです。

しかも、そのフレーズの特徴的なこと。
最低音域から最高音域まで一気に駆け上り、
高速で中空を旋回するかのごとく、
ものすごいスピード感が我々に襲い掛かります。

彼の奔放、かつ哲学的なプレイは唯一無二。
ほかのどのジャズマンも彼のようなプレイをしませんし、
おそらくしようとしても出来ないのかもしれない。
あるいは、あまりに特徴があり過ぎて
マネをするのが憚られるのかもしれません。

音色も特徴的です。
蝶のように舞い、蜂のように刺すアルトサックス。
マイルスに「馬のいななき」と形容された、
グロテスクな中にも、不思議な美しさをたたえたバスクラリネット。
天空を軽々と飛翔するような、軽やかなフルート。

どの楽器を吹いてもインパクトのある吹奏。
と同時に、そこには必ず“謎”が含まれています。

そして、我々ドルフィー好きは、その“謎”に魅了されるのです。


※)複数の楽器をこなせる管楽器奏者

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『ラスト・デイト』
エリック・ドルフィー

1. エピストロフィー
2. サウス・ストリート・エグジット
3. ザ・マドリグ・スピークス,
  ザ・パンサー・ウォークス
4. ヒポクリストマトリーファズ
5. ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ
6. ミス・アン


アルト、バスクラ、フルート。極上の演奏で、
エリック・ドルフィーの魅力をバランスよく味わえる代表作。
ラストにドルフィーが語る「一度中空に放たれた音は、二度と取り戻すことは出来ない」は有名。


『インナー・マン』
ジョン・コルトレーン

 


一時期、コルトレーンのグループに参加していたドルフィー。
コルトレーンと比較しながらドルフィーを聴けば、いかに異色なサックス吹きだったかがよく分かる。

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2006年2月22日(水)

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