やがて本気で好きになります

第81回
「ドルフィー宇宙人説」

以前、脳学者の加藤総夫氏は、
ドルフィー宇宙人説を唱えていましたが、
私もこの説に一票を投じたいと思います。

曰く、
「彼は死んだのではなくて、
地球の音楽をちょっとだけ変えて宇宙に戻っていった」
うん、たしかにそうかもしれません。

エリック・ドルフィーは、ジャズという音楽をやっていました。
ベースが1小節に4つを刻み、ドラムのシンバルレガートが、
それに躍動感をもたらすリズムのいわゆるフォー・ビートですね。
当時の、モダンジャズの一般的なスタイルです。

他のジャズマンと同様、
ドルフィーもこのビートを土台にして
アルトサックス、バスクラリネット、フルートを駆使して
自己表現をしていました。

しかし、ドルフィーを聴けば聴くほど感じるのが、妙な違和感。
もちろん、それは気持ちの良い違和感なのですが、
彼のプレイは、もはや
4ビートの枠をはみ出ているように感じるのです。

ドルフィーにとって、
たまたま自分の音楽に一番近いスタイルが4ビートだから、
このスタイルで演奏しているだけ、という感じがするんですよね。

ドルフィーが生きていた時代は、
人類は、ドルフィーの個性を最大限に生かすリズムを
発明できなかったんじゃないかとすら思ってしまうのです。

ドルフィーが生きていた時代の最も先鋭的な音楽が、
たまたまジャズだったから、
このスタイルを借りて演奏しているだけという気がするのです。

それは、今でもそうかもしれません。
いまだ、人類は
宇宙人(=ドルフィー)の表現にフィットするサウンドを
作りえていないような気がします。
それだけ、彼の表現は、あまりに進みすぎているのです。

しかし、1枚だけ、ドルフィーの異端な個性を掬い取る、
奇妙ながらも美しい成果が残されています。

『アウト・トゥ・ランチ』というアルバムです。

ドラム、ベース、ラッパ、ヴィブラフォンという珍しい編成。
これらの楽器が立体的に交錯し、奇妙に歪んだ空間を構築します。

ドラムのトニー・ウィリアムスが、精緻かつ大胆な空間を構築し、
ボビー・ハッチャーソンのヴァイブが打楽器のように、
空間を転げまわります。
リチャード・デイヴィスが不穏な空気を加味するという、
彼らの生み出すリズムは、まるで四次元空間です。

このリズムの谷間を縦横無尽に疾走するドルフィー。
まさに、これまでどこにも存在しなかった、
捩れた美しさを誇る音楽の完成です。

ジャケットも秀逸です。
「昼食につき外出中」。
オフィスの前に掲げられた看板の下には、いくつもの時計の針。
地球を去ったドルフィーは、
いったい、いつ戻ってくるのでしょうか?

――――――――――――――――――――――――――――

『アウト・トゥ・ランチ』
エリック・ドルフィー

1. ハット・アンド・ベアード
2. サムシング・スイート・サムシング・テンダー
3. ガゼロニ
4. アウト・トゥ・ランチ
5. ストレート・アップ・アンド・ダウン


不思議でシュールな空間。
このリズム、このサウンドこそが、ドルフィーという異星人にフィットした形態だったのかもしれない。

←前回記事へ

2006年2月24日(金)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ