やがて本気で好きになります

第87回
《モーニン》はファンキージャズの代名詞

行きつけの飲み屋で、時折ジャズの演奏をすることがあります。

そのとき、お客さんから「アレ演ってよ」と
必ずリクエストされる曲がありまして、
その筆頭が、《テイク・ファイヴ》に《レフト・アローン》。
いずれもこのコーナーで取り上げた曲ですね。

映画やCMで使われたことのある、つまるところ、
ジャズを知らない人でも知っているほどの有名曲です。
そして、これと同じ理由で「演奏してよ」と言われる曲が
もう一つあります。
《モーニン》という、
アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズを
代表する曲です。

昭和36年、
アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの
来日が引き金となり、
日本でも空前のファンキーブームが沸き起こりました。

当時の模様を
「蕎麦屋の出前持ちも《モーニン》を口ずさんだ」
と表現したのは、ジャズ評論家の故・油井正一氏。

“ジャズと縁のなさそうな職業の人でも鼻歌を歌うほど
この曲は浸透していた”
という意味です。

今では立ち食い蕎麦屋でも有線でジャズが流れる時代なので、
蕎麦屋とジャズが縁遠いとされていた
昭和30年代の世相は想像で補うしかないのですが、
それほどまでに、日本ではブームだったのでしょう。

「モーニン演ってよ」とリクエストするお客さんは、
このブームの渦中にいた人たちで、
きっと“懐メロ”としてこの曲を聴きたいのだと思います。

この曲の作曲者はボビー・ティモンズ(p)。
来日したときのメッセンジャーズの一員です。

粘りのあるピアノのイントロ。
それに応えるかのように管楽器が音を奏でる印象的な出だしです。
この形式は、“コール・アンド・レスポンス”と呼ばれ、
教会ではよく用いられる方式です。

牧師が語りかけ、信者が「アーメン」といったように応える形式。
そういえば、この管楽器が演奏するメロディも
「アーメン」といっているように聞こえますね。

作曲者のボビー・ティモンズの父親は、
教会のオルガン弾きだったそうなので、
なるほど、小さい頃から見慣れた光景を曲にしたわけですね。

この曲の聴きどころはたくさんあります。
アート・ブレイキーのドッカドッカした、
ちょっと野暮だけれどもノラずにはいられないリズム。
トッポいラッパを吹きまくるリー・モーガン。
ふがふがと酔っ払いが我を忘れて喋り捲っているようなテナーを吹く
ベニー・ゴルソン。
そして、なんといっても、巻き舌ピアノとでもいうべき、
黒々とトグロを巻きながら演奏の中を転がってゆく
ボビー・ティモンズのピアノでしょう。

ファンキーとは黒人の体臭という意味のスラングが語源ですが、
それが転じて、
教会で歌われるゴスペルのフィーリングが根底にある
キャッチーなメロディと、
ノリの良いジャズをファンキージャズと呼ばれるようになりました。
ファンキージャズとはどんな演奏なのかを知りたければ、
まずは《モーニン》を聴いてみてください。
きっと、虜になると思いますよ。

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『モーニン』
アート・ブレイキー
&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ

1. モーニン
2. アー・ユー・リアル
3. アロング・ケイム・ベティ
4. ドラム・サンダー組曲
5. ブルース・マーチ
6. カム・レイン・オア・カム・シャイン


《モーニン》のほか、人気曲《ブルース・マーチ》も収録されたブルーノートの人気盤。

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2006年3月10日(金)

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