やがて本気で好きになります

第92回
「桃太郎」でアドリブを解説してみる

この連載も残すところ、あと9回。
そろそろ、ジャズの究極の楽しみ=アドリブについて
分かりやすく解説してみたいと思います。

ジャズのジャズならではの楽しみは、
アドリブ(=即興演奏)の鑑賞にあります。
もちろんアドリブはジャズだけの特権ではありません。
ジャズ以外の音楽も取り入れられている手法ではあります。
しかし、ジャズのアドリブほど、
音楽の出来を左右するほど大きな位置を占める要素はありません。

このアドリブの魅力に開眼すれば、
ジャズから足を洗えなくなるほど惹き込まれること必至です。

もちろんジャズには、
テーマのメロディや楽器の音色を鑑賞する楽しみもあります。
しかし、それだけだったら、
ジャズに限らず、他の音楽でも味わえる要素なので、
なにもジャズだけにしか求め得ない特殊な魅力ではありません。

アドリブを楽しめる「耳」が育てば、
あなたのジャズ生活はよりいっそう豊かなものとなることでしょう。

しかし、急にアドリブの良さに目覚めろ!といっても、
無理な話ですよね。

アドリブってなんなの?

乱暴に言ってしまえば、
ジャズのアドリブは、演奏者の好き勝手な「お喋り」です。
要は「語り」の内容が面白いか、つまらないかに尽きるのです。

ジャズマンの個性とは、すなわち喋り方、語り口です。

コルトレーンのように、
長々と膨大な量の言葉を話すタイプもいれば、
マイルスのように、要点を押えてピリッと話す人もいます。
ハンク・モブレイのように、暖かな語り口の人もいれば、
言葉の端々から滲み出てくる「訛り」が魅力的な
マクリーンのような人もいます。

様々なジャズマンが楽器を通した「語り」を展開するわけですが、
語る内容には、お題目があります。
すなわち「曲」です。

《あなたは恋を知らない》と語るジャズマン。
《枯葉》が舞い散る模様を語るジャズマン。

「桃太郎」や「浦島太郎」のように、
誰もがストーリーもオチも知っている話(スタンダード)は、
いかに面白く語るか、
いかに自分の色を出して語るかがポイントです。

もちろん、
自分で考えたオリジナルのストーリーを語るジャズマンもいます
(自作曲の演奏)。

また、ビ・バップで盛んだった方法の一つに、
「桃太郎(アイ・ガット・リズム)」と
「浦島太郎(ハニー・サックル・ローズ)」のストーリー
(コード進行)を合体させて、
まったく別の、オリジナルよりも数段エキサイティングな
ストーリーを語るジャズマンもいます。

話の内容そのものよりも、
熱い語り口や姿で聴衆が熱狂させるタイプの人もいます。

いずれにしても、
ジャズマンが「語る」うえで大事なのは「お題目」で、
その「お題目」をまずは頭に入れておけば、
ジャズマンの個性の違いがよく分かるようになってきます。

落語家が語る「桃太郎」、
漫才師が語る「桃太郎」、
アナウンサーが朗読する「桃太郎」。
同じストーリーでも、
聞いている人が受ける印象は
まったく違ったものになることでしょう。

そのためには、まずは、ストーリー(=曲)を知る必要があります。
まずは好きな曲を1曲見つけてください。
多くのジャズマンが演奏しているスタンダードが良いでしょう。

たとえばそれが《ニューヨークの秋》だとする。
そうしたら、何人かの《ニューヨークの秋》の演奏を聴いて
曲を覚えてしまいましょう。
と、同時に、
ジャズマンによって違う語り口にも注意を払ってみてください。

語り口の違いに気付くことこそ、
語り口そのものを知る一番の近道なのです。

――――――――――――――――――――――――――――

ニューヨークの秋を聴き比べるならば、以下の4枚がオススメ。

『・アメイジング・バド・パウエル
Vol.2』
バド・パウエル

1.リーツ・アンド・アイ
2.ニューヨークの秋
3.アイ・ウォント・トゥ・ビー・ハッピー
4.イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー
5.シュア・シング
6.ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス
7.グラス・エンクロージャー
8.カラード・グリーン・アンド・ブラック・アイ・ピーズ
9.虹の彼方に
10.オードリー
11.ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド
12.オーニソロジー



『ダディ・プレイズ・ザ・ホーン』
デクスター・ゴードン

1.ダディ・プレイズ・ザ・ホーン
2.コンファメーション
3.ダーン・ザット・ドリーム
4.ナンバー・フォー
5.ニューヨークの秋
6.ユー・キャン・ディペンド・オン・ミー



『ジャンゴ』
M.J.Q.

1.ジャンゴ
2.ワン・ベース・ヒット
3.ラ・ロンド組曲
4.ザ・クイーンズ・ファンシー
5.デローネイのジレンマ
6.ニューヨークの秋
7.バット・ノット・フォー・ミー
8.ミラノ



『カフェ・ボヘミアの ケニー・ドーハム』
ケニー・ドーハム

1.モナコ
2.ラウンド・アバウト・ミッドナイト
3.メキシコ・シティ
4.チュニジアの夜
5.ニューヨークの秋
6.ヒルズ・エッジ


←前回記事へ

2006年3月22日(水)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ