やがて本気で好きになります

第98回
「ジャズ本」を読む楽しみ

ジャズに興味を持った方は、
是非、この連載以外にも、
ジャズ本を紐解いてみることをお勧めします。

評論家推薦のアルバムに耳を通してみるのも、
新たな発見の第一歩です。
しかし、“ディスク・ガイド”として活用する以外にも、
ジャズ本を読む楽しみはあります。

それは、自分の知っているアルバムや、好きなジャズマンを
活字でどう表現されているのかを覗く楽しみです。

共感や反感を覚えたり、
あるいは「この人は巧い表現をするなぁ」と感心してみたり。
聴きこんだジャズの量に比例して、
ジャズ本を読む楽しみも増えることでしょう。

たとえば、

『新ジャズの名演・名盤』
後藤 雅洋

では、サヴォイというレーベルに吹き込まれた
チャーリー・パーカーの音色のことを
「タイトに引き締まった塩辛いような音色」と表現していますが、
うーむ、短い言葉で簡潔に
パーカーの音色の特徴を捉えているなぁと思います。

パーカー嫌いの著者が書いた

『辛口!JAZZノート』
寺島 靖国

では、 “ペンチで心臓を掴まれたような”という表現が。
なるほど、マイナスのニュアンスの表現だが、
これはこれでパーカーのことを巧く言い当てているなと思います。
ちなみに、この本では、ビリー・ホリデイの歌を
“酔っ払い女がゲロを吐きながら路地裏をほつき歩く姿”
を想像すると書かれています。

自分の好きなジャズマンを
ここまでこき下ろされると腹が立ちますが、
と同時に、まったく的外れな表現でもなく、
それはそれで特徴を言い当てているのです。
辛口ですが、ユーモアも感じられるので、
私は寺島氏が書く文章のファンです。

氏と私の好みは正反対ですが、それはそれで、
“寺島さんが嫌いなアルバムは自分が好きな可能性が高い”
という一つの指標にもなるので、
彼のレビューは、なるべく目を通すようにしています。

マイルスのことを語らせたら右に出る者はいない中山康樹氏の

『マイルスを聴け!』
中山 康樹

には、マイルスに関してのオイシイ表現が盛りだくさん。

ミュート・トランペットのプレイに定評のあるマイルスですが、
私はミュートを外して吹く重い音色のラッパも好きです。
中山氏は、この音色のことを“水銀のような音”と表現しており、
そうそう、それだよ!と私は膝を打ちました。

村上春樹の

『ポートレイト・イン・ジャズ』
村上 春樹

には、さすが作家!と思わせる表現が満載。

特に、リー・モーガンのトランペットを
「球質が軽い」と表現したくだりには、
「漠然と感じていることをうまく言葉にしてくれた」
と喉のつっかえが取れたように感じました。

音と文字は別物。
だから、楽器の音や、演奏のニュアンスを、
文字で表現するには、もちろん限界があります。
しかし、自分が感じた音を文字で伝えようと
工夫がこらされたレビューは読んでいて楽しいです。

もちろん、すべてのレビューがそうとは限りません。
中には、「日本人はもっとオルガンを聴くべきだ」とか
「これは必ず聴くべきだ」というような
「べき論」に終始している評論も多いです。

しかし、少なくとも、今回、ここで取り上げた4冊は、
聴いたことのある人が読めばニヤリ、
聴いたことの無い人が読んでも「聴きたい」
と思わせる表現のオンパレードです。

手前味噌ですが、私は、以前メルマガで、
セロニアス・モンクの『ブリリアント・コーナーズ』のタイトル曲を
“怒涛のなんじゃこりゃメロディ”と書いたことがあります。
これがキッカケで、
この表現に賛同してくれた読者と親交を持つことが出来ました。

自分の感じた音に共感してもらえる読者がいること。
私にとっては、何にも勝る幸せなのです。


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2006年4月5日(水)

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