時代の美意識

第22回
立ち食いソバが恋しくて

私の仕事は、本来は黒子です。
表方を支えるために存在する裏方というのが役割です。
俳優のヘアメイクの仕事も、
「きれいになりたい」という方たちの願いを手助けする今の仕事も、
それは変わりません。

そんな黒子であるはずの自分が、
最近少し名前を知られるようになって、
ありがたいと思うと同時に苦しさも感じています。

20代の頃、
「60歳になったとき、
着るのにふさわしい人間になれていたら買おう」
と考えていたシャネルの服も、
60歳になって自分へのご褒美として買ったものの、
いまだに身につけることに抵抗があります。
講演会に来てくださった方への礼儀と感謝の気持ちの表れと考え、
仕事着として割り切って着ていますが、
シャネルを着ている自分はあまり好きではありません。

素の自分はちっとも変わっていないのに、
キャラクターとしての”田中宥久子”ができてしまい、
そのギャップが時としてつらい。
何がつらいと言って、
駅で立ち食いソバを食べられなくなったことが何よりつらい!

以前は、立川駅にある立ち食いソバの
「おでんうどん」を食べるのが最高の楽しみでした。
カウンターの隅っこに陣取って、素うどんや掛けそばを頼み、
「今日はトッピングを何にしようかなあ」と悩むのが、
このうえない至福の時間。

卵にするか、あげにするか、
思い切って卵とワカメ入れちゃおうかなあ、
やっぱりキツネにしようかと、
トッピングを吟味するのが大好きでした。
なんだかんだトッピングを贅沢しても、
立ち食いソバなら480円ぐらい。
値段もハッピーです。

大好きな立ち食いソバが食べられなくなってしまったことは、
本当に悲しい。
会社のお昼ごはんでも、「何を食べますか?」と聞かれ、
近くの立ち食いソバ屋さんの名をあげると、
「それだけはお願いですからやめてください」
と周りから止められてしまいます。

もう一度、立川駅の「おでんうどん」を食べたい。
トッピングに悩む幸せを味わいたい。
ささやかな今の願いであり、やはり原点に戻り、
こんど立ち食いソバ屋に行こうと楽しみにしている私であります。


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2009年7月23日(木)

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