第40回
白磁の名窯 「定窯」
中国陶磁器の正に黄金期であった宋時代に、
特別に評価の高い五つの窯が存在しました。
それらは「汝窯・官窯・哥窯・定窯・鈞窯」と呼ばれ、
その多くが皇帝御用達のものでした。
その中で唯一、白磁を焼く窯がありました。
それが北宋時代に今の河北省一帯で栄えた「定窯」です。
件の五大名窯のうち、
他の四つの窯は全て神秘的な青磁を焼く窯でしたので、
シンプルな白磁窯として五大名窯に選ばれた「定窯」の作品が
いかに特別なものであったかが分かろうかと思います。
白磁というものを簡単に言えば、
真っ白な胎土に透明な釉薬をかけて焼いた焼物です。
つまり、青磁や色絵の焼物が
「足し算・掛け算」の焼物なのに対して、
白磁は「引き算」の焼物なのです。
焼物は胎土に含まれる鉱物と
釉薬に含まれる鉱物によって発色します。
ですので、真っ白の焼物を作ろうと思えば、
まず発色する鉱物の含有量が
できるだけ少ない土を探してきて更にそれを精製し、
釉薬もできるだけ不純物を取り除いて焼き物を焼く事です。
つまり、不要なものを取り去っていく事で
最高の白磁が生み出されれる訳です。
当時はわざわざ胎土を輸送してまで
他の地域で焼物を作るという事はしていなかったので、
そういう条件に合った土が採れる場所でしか
綺麗な白磁を焼く事ができませんでした。
そのような条件に合い、
魅力的な白磁を焼く事に成功したのが、
「定窯」だった訳です。
この「定窯」の作品には、いくつかの特徴があり、
それが真贋を見極めるポイントとなっています。
その一つが「涙痕」と呼ばれるもので、
釉薬が少し多めにかけられた部分が焼成時に垂れて、
その名の通り涙を流したように見える事から名づけられました。
なんとも、ロマンティックな呼び名です。
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「定窯」の特徴である「涙痕」がはっきりと出た作品。
釉薬が溜まった部分が
このようにしっとりとした黄味を帯びていれば本物。
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