第64回
私のお気に入りの一品
今回の私のお気に入りの一品は
「青花義之愛鵝図」という壺です。
これは北京のコレクターから譲って貰った品ですが、
焼き物としては、
明時代の後期に一般大衆用の民間の窯(民窯)で焼かれた
ありふれた品です。
よく似た明時代の壺はどこでも見かける事ができ、
その価格は数万円〜高くても20万円ぐらいのものでしょう。
しかし、この壺は中国のオークションにおいて
けっこう高額で取引された経歴があります。
何故ありきたりの焼き物を
中国人が競い合って買い求めたかと言うと、
その図柄にその答えが隠されていました。
実は、この壺に描かれている人物は「王義之」なのです。
この壺の絵は王義之の少年時代の逸話を元に描かれています。
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手にガチョウを持っているのが、少年期の王義之 |
書を少し知っている方なら、
勿論存じておられると思いますが、
王義之は中国において「書聖」「書神」などと呼ばれ、
他に比べる者がいないと言われる程の書の達人です。
現存する彼の作品で真筆だと断言できるものはなく、
最も真筆に近いとされるのは台湾故宮博物院に収蔵される
『快雪時晴帖』となります。
以前のコラムで書きましたが、
日本軍の侵略から逃れる為に北京故宮宝物の大移動がありました。
その脱出の際、この王義之の『快雪時晴帖』は
全ての宝物の中でも最重要品とされたと言われます。
今回紹介した品は、
絵が描かれた陶磁器において、
図柄の内容によってその価格が左右されるという
一つの例だと言えます。
もう一つ、絵の描かれた陶磁器を買う際に大切な事は
いかに絵が流暢に描かれているかという事です。
下手でも漫画チックでも良いのですが、
チェックすべきは慣れた筆跡が見て取れるかどうかです。
最近、明時代の民窯青花磁器は大量のニセモノが流通しています。
ニセモノの特徴としては、
まず絵がぎこちない事が挙げられますが、
最近の特徴として流暢な感じを見破られない為に
わざと幼稚園児が書いたと思えるほど
グチャグチャに描かれた小品が散見されます。
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台湾故宮博物院に収蔵される、
「書聖・王義之」作『快雪時晴帖』の一部 |
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