中国古陶磁器 そのロマンを求めて-天青庵

単なる美術品ではございません

第72回
発色困難な焼き物「釉裏紅」

今回紹介するのは、「釉裏紅」の合子です。
「釉裏紅」と言うのは、その名の通り
「釉薬の下に紅色が発色した焼き物」という意味です。

紅色の中にランダムに緑色が入る作風の「釉裏紅」の作品。
その偶然性が作品の魅力を増す。

清朝前期の官窯銘が入るが、
作品は正式な官窯品ではなく、
清後期に作られた民間窯のもの。

この「釉裏紅」という焼き物は、
皆さんが食器としてよく使用している、
白地に藍色の文様が描かれた磁器(青花磁器)と
全く同じ手法で作られます。

まずよく精製された真っ白な素地を素焼きにします。
そして一度焼いた磁胎に筆で文様を描いて、
その上から透明の釉薬をかけて焼くと
ガラス質の下に綺麗な文様が浮かび上がります。

よく見かける青と白の磁器と赤色に発色する
この「釉裏紅」の違いは何かと言いますと、
文様を描く時に使われる鉱物(顔料)の違いによるものです。

青色に発色させたい時は、「コバルト」を用い、
赤色に発色させたい時は「銅」を用います。

しかし、この銅という顔料は非常に取り扱いが難しく、
一定の温度と一定の窯の状況で焼かなければ
狙っている綺麗な色に発色しません。

銅は気化する温度が低く、
窯の中の温度が高くなり過ぎればすぐに蒸発してしまいますし、
逆に低すぎれば、黒っぽくなってしまいます。

また、焼成中に供給する酸素量も大変重要で、
酸素を与えない還元焼成なら「赤色」に、
酸素を与える酸化焼成なら「緑色」に発色します。

とにかく、銅を顔料に用い、
焼き物を綺麗な紅色に発色させる事は大変困難な事なのです。

実は、このように困難な焼き物である
「釉裏紅」が誕生したのには、それなりの理由があります。
前回のコラムでも説明したように、
西アジアとの交流が栄えた元の時代、
青色に発色する「コバルト」が安価で大量に持ち込まれ
中国では「青花磁器」が盛隆を極めます。

しかし、元王朝の滅亡と共に良質のコバルトの流通量が減り、
仕方なくどす黒い発色の「国産コバルト」が使われました。
その汚い発色に満足できなかった明初期洪武帝官窯において、
試行錯誤の末に紅色の綺麗な焼き物が誕生したのです。

この紅色の焼き物は、
明初時代青色の顔料が減った事で
苦肉の策として生まれた焼き物なのです。

 
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2008年3月26日(水)

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