中国古陶磁器 そのロマンを求めて-天青庵

単なる美術品ではございません

第110回
「虫喰い」が喜ばれる

衣類や掛け軸などを押入れに保存している間に
虫に食われて穴が開いてしまったという経験は
誰にでもあると思います。

衣類や掛け軸などに穴が開いてしまえば、
その価値は大きく下がりますよね。
でも、中国古陶磁器の世界では「虫喰い」が喜ばれ、
「虫喰い」がある方が価値が上がる事があるのです。

もちろん「虫喰い」と言っても、
陶磁器の場合、虫が齧ってできた訳ではありません。

陶磁器用語の「虫喰い」とは
釉薬の一部分が胎土から剥がれ落ちて、
下の土が見えてしまうという焼成上のミスの事です。

このミスの原因としては、
釉薬と胎土の収縮率の違いや釉薬や
胎土の精製不足などが挙げられます。
簡単に言えば、「雑に作り過ぎだろ!」という事です。

このような「虫喰い」のある磁器は明時代の後期、
景徳鎮の民間窯において作られました。
当時の景徳鎮では、国内外の需要増からの生産に追われて
品質など二の次の実用品が大量に焼かれています。

特に輸出用の青花磁器(白地に青色の文様が描かれた磁器)に
「虫喰い」が多く発生しましたので、
それらの品は日本に沢山残っています。

ただし当時の日本(室町〜安土桃山時代)において、
それらの中国製陶磁器は高級品だった訳ですから、
釉薬がボロボロと剥がれ落ちる様を見た購入者は
「くそっ騙された!粗悪品だ!」と嘆いた事でしょう。

そんな「虫喰い」付きの青花磁器を
日本では「古染付」と呼びます。
そのように粗悪品の「古染付」でしたが、
その後この粗悪品に
スポットライトが当てられる時がやってくるのです。

その後しばらくして、
日本の茶道の世界において「侘び茶」が賞賛されるようになり、
古染付が重用される事になるのです。

侘び茶とは侘び寂びの精神に基づき、
普段目を引き難いようなものの中に存在する
「美」を尊重するという茶道の理念の事です。

その「侘び茶」の精神と口の部分が
ポロポロと剥がれた中国製の焼物がマッチしたという事です。

口の部分がポロポロですから、茶碗は使い物になりません。
お茶の世界に伝わる古染付の優品は
自然と水指しや花指しや皿などに限定されます。

古染付の優品

口縁部の釉薬が剥げ落ちているが
それが侘び寂びの精神とマッチングー!

解説リンク

この「虫喰い」付きの古染付の焼物、
不思議と中国には残っていません。
その理由は、中国において高級品ではなく
日常品だった古染付は普通に使い捨てられきたという事でしょう。

それは、私達が今使っているごはん茶碗が
400年後まで伝わらないのと同じ事です。
つまり、偶然日本に侘び寂びの美意識があったからこそ
古染付を現代まで伝える事ができたのです。

 
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2008年6月23日(月)

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