中国古陶磁器 そのロマンを求めて-天青庵

単なる美術品ではございません

第111回
鉄分たっぷりの茶碗「建窯」

子供の頃「鉄分を摂る為にほうれん草を食べなさい」と
よく母親から言われたものです。
しかし、幼少の頃の私はその「鉄分」という言葉に対して、
とても違和感を感じていました。

「ロボットじゃないんだから、鉄分なんか必要ないでしょ?
それにだいたい鉄なんて最初から食べ物じゃないじゃないか」
なんて感じで鉄分の多い食べ物を拒絶していました。

そんな私でしたが、高校生になる頃には
鉄分摂取の大切さを理解できるようになり、
今に至ります。

そのように鉄分は人体において重要な役割を持ちますが、
陶磁器の世界においての鉄分はもっと大切な意味を持ちます。
陶磁器製作はある意味
鉄分との戦いでもあると言っても過言ではありません。

陶磁器の材料である
「土、石、灰」の全てに鉄分が含まれています。
そして陶磁器の出来上がりは
その鉄分のコントロールによって決まると言えるのです。

まず、胎土。
土には鉄分が含まれていますので、
そのまま使えば必ず焼き物に色が付いてしまいます。
もし真っ白な焼物を作りたければ
鉄分を沈澱させ取り除くという精製作業が必要となります。

また、釉薬。
灰をベースとした釉薬には微量の鉄分が含まれていて、
それを還元焼成する事により
青磁のようにキレイな青色がでる訳です。

また鉄分の多い石を砕いた顔料を釉薬として使えば、
黒、茶色、赤色まで様々な発色を得る事ができます。

つまり、焼物と鉄分はその発色において
切っても切れない関係なのです。
そのように鉄分が重要な役割を果たす陶磁器製作ですが、
中国古陶磁器の世界において
正に「鉄分王」と呼べる焼物が存在します。

それは、南宋時代今の福建省沿岸に栄えた「建窯」の作品です。
「建窯」は少し変わった窯で、
当時流行した喫茶の影響で茶碗だけを焼いていました。
皿や壺などは焼いていなかったのです。

建窯の茶碗はいわゆる天目茶碗として
大量に日本にも輸出されています。
そんな建窯の茶碗を一言で言えば、
鉄分たっぷりの茶碗です。
色は真っ黒か茶色で、
胎土と釉薬の両方にたっぷり含まれた鉄分が
お互いに絡まり合うように発色しています。

そして、その時々の焼成状態により、
その絡まり合った鉄分が偶然の発色を引き起こします。

その中でも一番有名なのが
「耀変」と呼ばれる突然変異のような奇跡の焼物です。
また、それに準じて「油滴」という発色があります。
それらの優品は日本に存在し、
そのいくつかは国宝となっている程貴重なものです。

特に「耀変天目碗」が市場に出回れば
数十億の値が付くと言われている程です。

そんな貴重な「耀変」や「油適」は
鉄分が多すぎて焼成時に
結晶化して浮遊するという偶然から生まれます。

「鉄分が焼物に魂を吹き込む・・」
人間だけでなく、
焼物にも鉄分が大切だと言う意味はそういう事なんです。

正に鉄分の塊のような建窯の天目茶碗

鉄分の偶然のイタズラによって生まれた「耀変天目」
世界に四碗しかないと言われる <国宝>
 
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2008年6月25日(水)

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