第129回
私のお気に入りの一品
今回の私のお気に入りの一品は「清朝雍正期倣哥窯碗」です。
これを日本語に直すと、
清時代の雍正期、哥窯の作品を模倣して作られたお碗です。
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釉薬は宋時代の模倣でも、
端正な造形は清時代の作品だという事を表わす |
まず、哥窯とは宋時代の名窯で、
未だにその窯跡が発見されていない
幻の陶磁器を焼いた窯の名称です。
その作品は、写真を見て貰えれば分かりますが
誠に独特のもので、
灰色に焼き上がった青磁の一面にひび割れが生じています。
このひび割れは失敗してできたものではなく、
あくまでも故意に作り出されたものです。
アップの画像を見て下さい。
ひび割れには黒くて太いものと
その間を走る薄茶色のものがありますよね。
中国では、この黒いひび割れを「銀糸」
薄茶色のものを「金糸」と呼び、
この二つのひび割れが表れた焼物を大変貴重なものとしました。
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ひび割れが美しい・・
昔の中国人が「銀糸」「金糸」と名付けたのも肯ける |
宋時代の哥窯の作品は、
清の時代においても今と大差なく貴重なもので、
清の皇帝達もそういう品の収集に情熱を傾けました。
そして、皇帝の窯である「官窯」においても、
本物を手本とした模倣品が焼かれるようになったのです。
中国には「倣」(写し)という文化が存在しますが、
それは単なるコピーで終わるのではなく、
その精神性までも写し取るほどまでに極められたものだったのです。
写真の「清朝雍正期倣哥窯碗」は、
その釉薬の色調やひび割れの感じなど、
宋時代のものをよく写しています。
しかし、その造形は
正に清の雍正期独特の雰囲気がよく出ています。
正に『古(いにしえ)を写して、古(いにしえ)を超える』
といった作品です。
価格的には、宋時代哥窯の優品なら軽く億の値を超えます。
清の官窯で作られた「倣品」でも、
国際的オークションで数百万円の値がつきます。
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