第140回
芸術好きが高じて、国が傾いた
乾隆帝は、清朝の歴代皇帝の中でも、
とにかく異様なまでの芸術・骨董好きで特に有名です。
乾隆帝時代は
1736年から1795年までの60年間にも及ぶ長期政権でした。
乾隆帝時代は、
清朝時代いや中国史の中で最も華やいだ時代と呼ばれ、
乾隆帝の命によって各種文化や芸術が究極まで高められました。
しかし、乾隆帝時代の文化芸術の興隆は、
国庫の浪費や国の財政悪化の犠牲の上に
成り立っていたものだとも言えます。
つまり、現実には乾隆帝は単に前代までの皇帝が蓄えた財力を
浪費し尽くした皇帝だったのです。
そんな乾隆帝時代の陶磁器と言えば、
それまでの中国陶磁器史の全ての分野において、
最高の焼き物が焼かれたと言って過言ではないでしょう。
白磁、青磁、青花磁、五彩磁、粉彩磁、豆彩磁、
とにかくありとあらゆる焼き物が
最高の技術をもって焼かれています。
そういう陶磁器全盛の乾隆帝期において、
更に陶磁器に関して特筆すべき特色がいくつかあります。
一つは、乾隆帝のひたむきな古陶磁器収集への情熱です。
特に現在、宋代の神品と呼ばれ、
故宮博物院などに収蔵されているような陶磁器には、
乾隆帝がその権力に任せ収集したものが
少なからず含まれています。
乾隆帝は、その中でも特に気に入った古陶磁器の裏面などに、
自らが作った題詩を掘り込んでいます。
乾隆帝が愛した古陶磁器中でも、
特に有名なのは台湾故宮博物院収蔵の汝窯の瓶でしょう。
彼はこの汝窯の裏に自らの七言律詩を刻んでいます。
すでに300年前の清時代、
当時最大の権力者であった皇帝ですら
収集困難だった宋時代の一級陶磁器の希少性は
この話からもよく分かると思います。
そういう宋磁への憧れから、
清の乾隆帝期には宋の名窯の倣品(完璧にコピーした品)が
たくさん製作されており、
それはそれで大変高価なものとなっています。
もう一つ、乾隆帝期の陶磁器製作には特色があります。
それは、通常の陶磁器製作技術は
すでに限界まで高められてしまいましたので、
ある意味キワモノと言いますか、
焼き物で焼き物以外のものを真似る
という究極の作品が作られます。
漆器や竹器そして金属器など、
一見するだけは見分けがつかないほど
精巧な作品が焼かれています。
政治的にはそれまでの国庫を使い果たした乾隆帝でしたが、
陶磁器的には逆に
膨大な『財産』を現代に遺してくれたのが乾隆帝だったのです。
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清乾隆時代の官窯の正統な作品
作品の緻密さ、優雅さは究極まで高められた
解説リンク
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